第61話 激闘!第六駐屯地!(29) 死んでもらいます! モブキャラさんwww

 そう、エメラルダは、魔装騎兵すなわち第五世代の融合加工の技術そのものに不信感を抱いていたのである。

 従来、融合加工とは『物質』と魔物組織を融合加工し、その物質に新たな力を発現させるという考えの元で行われていたのだ。

 いわゆるタカトや権蔵が作る第一世代の融合加工の道具がまさにその典型例である。

 だが、第三世代時に、突然、ブレイクスルーが起きた。

 それは初めて『人体』と魔物組織とを融合加工することに成功したのである。

 これにより、直接『人体』に新たな力を発現させることがでるようになったのだ。

 そして、この第三世代の技術をさらに発展させたのが第五世代、すなわち魔装騎兵の魔装装甲を形成するために用いられている技術なのである。

 まあ、当然に、魔物組織を直接体内に融合するのであるから、その安全性、特にその使用者においては人魔症というリスクが常に付きまとっていた。

 確かに第三世代時には融合者の人血を直接使用していたことにより人魔症の問題がかなりの頻度で発生していたのは事実である。

 そして、その問題によって多くの第三世代の融合手術を受けた人間が、無情にも殺処分されていたのだ。

 だが、この問題も第四世代時に提唱された魔血の使用によって解決する。

 人血の代わりに魔物の血、すなわち魔血を使用することによって人魔症の発生を大きく減少させることに成功したのである。

 今の第五世代においては、その人魔症の発生リスクは魔血タンクに装填されている魔血の欠乏時のみというところまで安全性が高められていた

 この安定した魔装騎兵の存在は瞬く間に『融合国』以外の7つの国へと広まった。

 そして、戦闘能力が大幅に向上した聖人世界では、今まで不利であった魔人世界との戦争を均衡状態にまで戻すことができたのである。


 ここまで聞くと魔装騎兵には何ら問題がないようにも思える。

 だが、問題なのは、その第三世代の融合加工技術の出所なのだ。


 本来、融合加工の技術というものは、融合加工院に集められた技術者が研究をすることで開発されて世に広まっていくものなのである。

 だが、この第三世代の融合加工技術だけは少々違っていた。

 というのも、この技術は第一の騎士であるアルダインによって融合加工院に技術提供されたのである。

 ちなみに、アルダインは融合加工の技術者でもなんでもない。

 それどころか、興味すら持っていない素人も同然のエロ親父なのである。

 そんなアルダインから人体融合の技術が提供されたのだ。

 おかしいだろ?

 ふつうあり得ないだろ?

 ということは、この技術は誰かが開発したものをアルダインが持ってきたと考えるのが筋なのだ。

 ならば、いったいどこからこの技術を手に入れたというのであろうか?

 しかし、この事実についてエメラルダがいくらアルダインを問い詰めても、はぐらかすばかり。

「なぁ、エメラルダちゃん、今度、2ヒューマンオンリーでギロッポンアラウンドでシースーでもカミカミごっくんしにゴーしない?」

「全く意味が分かりませんが……」

 エメラルダはそんなアルダインにますます不信感を募らせる。

 というのも、アルダインには常に黒いうわさが付きまとっているのだ。

 だが、そんなことを口にするものは次から次に姿を消していく。

 だから、その噂が本当の事なのかは誰も全く分からない。

 だが、その噂はとても信じられないものであった。

 そう……それは……アルダインが魔人騎士ヨメルとつながっているという噂。

 この魔人騎士ヨメルというのは『魔の融合国』の第一の騎士であり融合加工の技術者なのである。

 そして、その技術の目標とするところは神と魔物との完全融合体というではないか。

 であれば、その実験過程で人と魔物の融合技術が生まれていてもおかしくはない。

 ――もしかしたら、明らかにされていない第三世代技術のコアの仕組みは、その使用者に大きな危険を及ぼすかもしれない。

 そのため、エメラルダは第五世代の魔装騎兵を良しとは思っていなかった。

 いや、最悪、人魔症のように魔物に変わったりすれば、その部下を自らの手で殺さないといけなくなるのである……

 ――そんなことはしたくない。

 そう思えば、なるべく自分の配下に魔装騎兵を置きたくないと考えるのは自然のような気がする。

 ……だが、今はそれが裏目に出た結果となっていたのも事実であった。


 城壁の裂け目の前では、相変わらずヨークたちが魔物たちをぶちのめしていた。

「武技!カンガルー連打ァァァァ!」

「武技!子カンガル安打ァァァァ!」

「なら俺は! 武技!たんたんタヌキの金玉は〜♪ 竿もないのにブ〜ラブラ〜♪♪ って、どうやってこの竿で戦えって言うんだよぉ」

YOUユー!カリ棒を勘違いしているな! これは棒術を基本としたフィリピン武術であるカリに使われているカリ棒の事なのだァぁぁ! 武技!短棍術!」

「武技!破邪顕正!」

「武技!スピニングバニーキック♪ というか! さっきからヨーク!どこを見てるのよ! あんた自身が邪道をうちやぶり正しい道理に目覚めなさいよ♪」

「お前ら!大丈夫か! 武技!鬼人ディフェンス!」

 しかし、魔物どもを倒せど倒せど……きりがない。

 ぶちのめしても、ぶちのめしても相変わらずその数が一向に減らないのだ。

 そんな、終わりの見えない戦いは、次第にヨークたちを疲労させ、その精神を永遠の戦いを強いる無間地獄かのような絶望感へと飲み込み始めていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 これには楽観的でお気楽なヨークも、さすがに死を覚悟しはじめた。

 ――あぁ……メルアごめんな……せっかく俺の誕生日祝ってくれるって言ってくれてたのに……戻れそうにないや……

 ヨークは死を前にして娼婦であるメルアの事を思い出していた。


 場末の連れ込み宿。明け方の暗い部屋はホコリとカビと乱れた敷布に染み付いた汗と発情した女の香りで充満していた。

 そんな部屋の片隅にポツンと立つロウソクの赤い光が、部屋の真ん中でうつぶせに横たわるメルアの裸体にハッキリとしたくびれの影をつけていた。

 頬杖を突くメルア。

 暗い部屋の壁を見上げながら何やら数を勘定しているようだった。

「なあ……ヨーク……アンタ……あともう少しで誕生日だろ?」

「ああ……」

 こちらも素っ裸のヨーク。何をするわけでもなく、ただ仰向けで頭の下に手を回し天井を見上げていた。

 だが、メルアはそれを聞くとバッと上半身を起こしヨークの顔をのぞき込む。

「アタイさ、アンタにプレゼントを用意したんだ! だから絶対にその日は店に来てくれよな! 絶対に絶対だぞ! いいな絶対に忘れるなよ!」

 そんなメルアの顔がローソクの明かりのせいなのか真っ赤に染まっているようにも見えた。

 ヨークは赤く火照るメルアの頬を優しくなでながら笑顔を作る。

「なぁ、プレゼントってなんだよwww 教えてくれよwww」

 だが、メルアはしわくちゃになったシーツを鼻先まで上げて顔を隠すのだ。

「教えない! 絶対に教えない! 誕生日までの秘密だよ!」

「この野郎www 教えてくれないと、こうだぞwww」

「やめてくれよwwwヨークwww教えないったら、教えないんだから」

「お前の弱いところはすべて知っているんだからなwwwwこの」

「アン♡ もうwwww」

 ヨークが何度も尋ねても、メルアは笑って何も教えてくれなかった。

 だが、ワンコインの連れ込み宿、最下層の貧民宿で働く彼女の所持金などたかが知れている。

 神民のヨークからしたら、おそらく大したものではない。

「ねぇ? 気になる? でも、絶対にwww教えてあげないからwwww」

 だけど……

 ――もう、これだけで十分……

 そう、それを話すメルアの表情はとても楽しそうだったのだ。


 ――もう一度、あの瞳……見たかったな……

 魔物たちの群れの中で唇をかみしめるヨークは覚悟した。

 そんなヨークに魔物たちの牙が一斉に飛びかかる。

 まだ、日の光は残っているというのにヨークの顔にいくつもの闇が落ちてくる。

 この魔物たちが作り出す闇に包まれた瞬間、自分は確実に死ぬ……

 本能的にそれを悟るが、体が動かない……

 さっきからやけに拳が重いのだ……

 はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……

 もはや気力が続かない。

 そんなヨークはついに膝をつく。

 ――メルア……店に行けそうにないや……ごめんな……

 ヨークはあきらめて目を閉じた……


 ぐわぁぁぁぁぁぁ!

 飛び散る断末魔。


 だが、それはヨークの悲鳴ではなかった。

 うっすらと目を開けるヨークの視界を、魔物たちの真っ二つになった体が魔血を吹き出しながら落ちていく。

 ――なにが起こった?


 そう、ヨークがあきらめた瞬間、その頭上に襲い来る魔物たちのはるか上空、その彼方から幾本もの鋭い斬撃が一直線に急降下してきたのである。

 斬り裂かれる魔物の体の間から日の光が差し込み、暗く沈んでいたヨークの顔が浮かび上がってくる。

 キラキラと舞い散る血しぶきの中、顔をあげるヨークの前には新たな10人のモブキャラ魔装騎兵が立っていた。


 この魔装騎兵たちは、もしかして、城壁の上でコカコッコーと戦っていた魔装騎兵たちなのだろうか?

 いや違う、彼らはゲルゲの攻撃によって自分たちの身を守るだけで精一杯。とてもじゃないが、下で戦うヨークたちの加勢に回ることなどできなかったのである。

 なら、いったいどこから来たというのであろうか?

 そう、彼らは偽装駐屯地から本隊に合流した魔装騎兵たちであった。

 上空を飛び回る半魔の大鳥。

 その背に乗って、この第六駐屯地までやってきたのだ。

 「待たせたな!」


 しかも、地上では偽装駐屯地からともに駆けつけた一般兵、奴隷兵たちが次々と魔物たちの群れの横っ腹に勢いよく突っ込んだのである。

 激しい怒声とともに奮戦する兵士たち。

 いきなり真横から奇襲を受けた魔物たちは悲鳴を上げ逃げ惑いはじめた。

 先ほどまでの気勢を失い後方に下がろうとするが、そこには前に進もうとする魔物たちがいる。

 押し合いへし合いになる魔物たちは互いに乗り上げ、邪魔な命を食らいあう。

 すでにもう、そこに統制という言葉は何もない。


 だが、これで勝利というわけではない。

 というのも、この奇襲部隊はただの一般兵や奴隷兵。

 そう、魔物たちに対抗できる魔装騎兵ではないのである。

 第一世代や第二世代の武器しか持たぬ彼ら、だが、混乱に乗じた今であれば確かになんとか魔物どもを切り伏せることができていた。

 だが、ひとたび魔物たちが落ち着きをとり戻せば、力で劣る人間たちは一気に不利になってしまう。

 だからこそその前に、魔物たちの牙が届かぬ駐屯地の中に入りこみ、離れた場所から攻撃を加えたいのだ。


 そんな援軍はひとつの三角となりながら魔物たちを切り伏せ前に進む。

 その先には第六駐屯地の城壁の門。

 だが、門は当然に閉まったまま。

 このままだと、魔物たちに囲まれて逃げ場を失いかねない。

「開門! 開門!」

 兵士たちは城壁の内側に向けて大声で叫ぶが反応が鈍い。

 それは仕方ない……

 というのも、門の背後で待機していた奴隷兵たちはゲルゲとググの攻撃によってその数の大半を失っていたのである。


 ようやく開いた城門。

 増援部隊は、あわただしく駐屯地中に駆け込んだ。

 当然に、それを追いかける魔物たち。

 だが、魔物たちの爪が門の縁に届いたのと同時に城門は固く閉じられた。

 間一髪!

 先ほどから悔しがる魔物たちが門を激しく打ち付けているが、さすがは『兵器国』の作った城門、びくともしなかった。

 だが、駆け込んだ一般兵たちは、そんな魔物たちの様子を確認することもなく城壁の内部の階段を急いで駆け登ると外壁に設けられた窓から身を乗り出し、今度は眼下に広がる魔物たちの群れめがけ一斉に矢を放ち始めたのである。


 この援軍に第六駐屯地は活気づいた。

 まだいける!

 まだ戦える! 

 そう、偽装駐屯地からの援軍によって第六駐屯地の部隊の数はだいぶ回復することになったのである。

 ふふふふwwww これで失ったモブキャラたちの補充も完了だ!

 これで、殺せる!

 まだ殺せる!

 無茶できるwww


 シラシ~♪ ラシドレドシラ~♪ シラシ~♪

 じゃカ♪ じゃーん♪

 じゃカ♪じゃカ♪ じゃカじゃーん♪


 一かけ二かけ三かけて

 仕掛けて殺して日が暮れて

 橋の欄干腰おろし

 遥か向こうを眺むれば

 この世はつらいことばかり

 片手に線香、花を持ち

「おっさん!おっさん!どこ行くの?」

 私は必殺仕事人

 中村主水と申します

「それで今日は、どこのどいつを……やってくれとおっしゃるんで?」


 死んでもらいます! モブキャラさんwww


「死んでたまるかぁぁぁぁあ!」

 勢いづいたヨークたちは再び気勢を上げ逃げ惑う魔物たちに突っ込んだ。

 ここぞとばかりに魔装騎兵たちは乱舞する。

 黒い魔物の草原に16の空間が散っていく。

 もはや剣を振るだけで魔物たちの首が面白いようにとんでいく。

 先ほどまでの死闘とは異なって剣を振るだけの簡単なお仕事であったwww


 もはや、攻めるのか逃げるのか方向が定まらぬ魔物たちは混乱の極致に達していた。

 統制の取れていない部隊は、おのずと及び腰になっていく。

 すでに大半の魔物たちが向きを変え逃走を図りだしていた。

 このまま魔人世界のフィールドまで逃げ帰ってくれれば……

 もはや……勝負は決したか……


 だが、そんな時!

 ガワアアアァァ


 大きな雄たけびが魔物たちのはるか後方より響き渡ったのだ。

 その声に恐れおののくかのように魔物たちはその場に立ちすくんだ。

 そう、その声は後方でにらみを効かす魔人騎士ガメルのもの

 魔物たちにとって力こそが絶対。

 力あるものには絶対服従!

 そのルールに従い魔物たちの向きが再び城壁へと変わった。

 魔物たちも魔物たちで必死なのである。

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