第8話 激闘?福引会場?(5) これこそ! ガラポンいかさま道具!パちんこ玉赭ブロー

「……気がすみましたか……」

 うっすらと開いたフジコちゃんのまぶたの上を、野太い男の影が覆っていた。

 まぁ正確には、男のごっつい手の平がフジコちゃんの顔面すれすれで魔法少女のメリケンサックを受け止めていただけなのだが。

「お嬢……さすがに、この場所でカタギさんに手を出すのはマズイでしょ……」


 そんな男の手のひらの影からフジコは急いで転がりだすと、魔法少女に向かってアッカンベー。

「今日のアルバイト代は、いつかきっちり金蔵家に貰いに行きますからね!」

 そして、ステージから駆け降り一目散に逃げ出して行った。


 それを見送る魔法少女は「ふぅー」と大きく息を吐きだすと、男の手のひらに打ち付けていたメリケンサックをゆっくりとスカートの中へとしまい込みはじめた。

「イサク……あなたにはあの女がカタギに見えるのですか?」

「えっ……違うんですかい?」

「だから、男と言う生き物は簡単に女に騙されるんですよ……まったく……」


 イサクと呼ばれた男は、よほど手の平の痛みを我慢していたのだろうか、ぶんぶんと振りながら息をフーフーと吹きかけて答えていた。

 だが、息が吹き付けるたびに、顔にかぶった紙袋が大きく膨らんでは縮むのだ。

 そんな紙袋の音が、静まり返ったステージの上でガサガサと騒がしい。

 というか……なんで、この男は紙袋をかぶっているのだろう?

 ステージを見上げる観客の誰しもが不思議に思っていたに違いない。

 さらに言うと、この屈強な男の上半身は裸。しかも、その身に着けているのはピンクのエプロンときていた。

 なんで?

 もう、意味が分からない。

 も! もしかして! 変態? 変態さんなのだろうか?

 いや! 新しい仮面ダレダ―なのかもしれない!

 だが、仮面ダレダ―の新シーズが始まるにはちょっと早いような気もする。

 すでに親も子供も皆全員、完全に思考停止の状態になっていた。


 そんなイサクを見ながら魔法少女は、大きくため息をついた。

「まぁ……いいでしょう……今日は、これで引き揚げますよ」

「イエッサー!」

 と言い終わるや否や、魔法少女とイサクの姿がステージの上からスッと消えたのだ。


「ついに逃げ出したか悪の組織ツョッカーよ! 正義は必ず勝つのだ! ワハハハハハハ!」

 二人が消えたステージの中心で、仮面ダレダ―が高らかに勝利の雄たけびを上げていた。

 だが、そんな大笑いとは反対に、ステージ下の観客席は相変わらずシーンと静まり返っている。

 といのも、高笑いをする仮面ダレダ―の仮面はボッコボコのボッコボコ。

 もう、純真な仮面ダレダ―ファンである子供たちですら、どこをどう見たら仮面ダレダ―の完全勝利なのか全く理解できなかった。


 だが、一人、ダレダ―の完全勝利を喜ぶ者がいた。

「きゃぁぁぁぁ! 仮面ダレダ―! 強い! 強すぎるわ!」

 そう、50m離れてみていたビン子である。


 それに合わせるかのように横に立つコウスケもわざとらしく。

「仮面ダレダ―……強い……強すぎるぞ……」

 と、一本調子のセリフをのたまった。

 ビン子と違って仮面ダレダ―に対する情熱が少々欠けるコウスケ。

 どうやら、ステージの上のダレダ―が勝利したとは、どうにもこうにも思えなかったようだった。

 だが、横のビン子の機嫌を取るためには、とりあえず気持ちを合わせないといけない。

 それはまるで酒の席でつまらない上司の古びたギャグに率先して爆笑を強制される中年社員かのように……

 辛い……辛すぎるぞ……これは……


 そこまでしてコウスケが頑張っているにもかかわらず、二人の背後に立つタカトからは、「ありゃ~負け犬の遠吠えだなぁwww」と、大笑い。


 当然、ビン子の反応は、

 ビキ!

 先ほどまでダレダ―の勝利を喜んでいた笑顔の額に青筋が走った。


 それを横目で見るコウスケ。

 ――これはチャーンス!

 そう、ここでビン子を擁護し、タカトを叩きつぶしておけば、ビン子のコウスケに対する評価はうなぎのぼり間違いなしなのだ。


 だが、当のタカトはそんな事とはつゆ知らず大笑いを続けていた。

「普通、あそこで高笑いするかなwww」

 そんなタカトの方にビン子が振り返ろうとしたとき、それよりも早くコウスケの身が翻った。

「なんだと! タカト! お前、仮面ダレダ―様に文句があるのかよ!」

 ――ヨシっ! これで確実にビン子さんは俺に親近感を覚えてくれるはず!


「だってさぁ、強敵に打ちのめされた仮面ダレダ―は今回の敗北から這い上り、さらなる進化を目指すのだ! とか言えばさ、仮面ダレダ―RXとかにつながるじゃんwww」

「ぐっ!」

「要は、負けたって事実が認められないってことだろ!」

「ぐぐぐ……」

「己の弱さを認められない奴がヒーローなんて名のるなよなwww」

 まさに正論。

 ――だが、ココで引き下がればビン子さんの気持は、また離れてしまう。

 何とかしなければ……何とか……

「なら、タカトはどうなんだよ! タカトは!」

「えっ? 俺、ヒーローじゃないしぃ~残念でしたぁwww」 


 そんな一触即発の二人の間にビン子が慌てて割って入ってきた。

「はいはい。あっ、順番来たわよ」

 というか、すでにビン子の仮面ダレダ―熱は、完全に冷めている模様。

 それにもかかわらず、にらみ合うタカトとコウスケは目から火花を散らしながら決戦に臨むべく、係員の前へと力強く踏み出していったのだ。


 女性係員の前にひとり立つタカトは、瞬時にその表情を変えた。

 先ほどまでの険悪な表情とは打って変わって、にこやかに微笑むその姿はまるで紳士そのもの。

 目の前の女性に敬意を払うかの如く己が手を胸にまであてている。

 そして、ゆっくりと傾く上半身。

 それは丁寧に丁寧にお辞儀を始めたのだ。

 そして、タカトの挨拶の定型句!

「おっぱいも揉ませてください!」


 ビシっ!

 そうタカトが言い終わるか終わらないかのうちに、ビン子のハリセンがタカトの後頭部を張り倒していた!

 その一撃は、まるで砂浜に転がるスイカを叩き割るかのような上段からまっすぐに振り下ろされた渾身の一刀。


 ガラポンが置かれた机の前では、タカトの丸い後頭部が固い地面にめり込んでいた。

 茶色い地面と言うキャンバスに飛び散る赤いはな、いや、赤いはな

 それはまるで割れたスイカの汁のように真っ黒な鼻くそと共に辺り一面に広がっていた。

 おそらく……タカトの奴、顔面をしたたかに強打したのだろう……

 これは、さすがに酷い……

 ただのちょとしたエロトークじゃないか……

 ひどすぎるよビン子ちゃん……


 フッwww

 そんなタカトを見ながらビン子が鼻で笑っていた。

 もしかして……こ……この笑い……

 おそらく先ほどタカトが仮面ダレダ―を笑ったこと、それを根に持っていたにちがいない。

 そして、ここぞとばかりにその恨みをこめてハリセンを振るったのだ。

 ああ……女の恨みとはなんとも恐ろしいものだろう……

 世の男性諸君はくれぐれも肝に銘じるように。

 些細な事でも女性の恨みは積もるのだと。


 そんな突然の不審者の発生にガラポンの後ろに立つメルアの顔は引きつっていた。

 そう、この受付の女はネコミミ半魔のメルアであった。

 メルアもまた、この祭りの手伝いのためにモンガによって駆り出されていたのだ。

 だが、主のモンガは超どケチの上の超どケチ!

 さらに、ベッツが魔物に襲われたのはメルアのせいだと逆恨みまでしている。

 そのためか、ことあるごとにメルアをこき使うのである。

「サボるな! このあばずれ女が!」

 しかも、それが無休の無給で無窮むきゅうに続く! ムキュゥゥゥ!

 もう、ここまでくると労働基準監督署が怒鳴り込んでくるのはないかと思うぐらいに酷い待遇なのだが、残念ながら、この世界には労基は存在しなかった。


 だが、ひどい扱いにもかかわらず今日のメルアは清々していた。

 というのも、今日の仕事はガラポンの受付。

 日頃行っている体から石鹸の香りを立てながら男の欲情を満足させる仕事ではないのだ。

 ただ一点ムカつくことといえば、隣にクソあるじであるモンガがいることぐらい。

 それもまぁ、机一つ挟んだ向こう側。

 しかも、少しでもメルアに近づこうものなら隣のローバンが回すガラポン鉄砲の餌食になっていたwww

「このロリコン野郎! 死にやがれぇぇぇ!」 パン!

 あの娘……いまだに喜々としながらガラポン鉄砲をパンパン言わせておりますわwww

 

 そのためかメルアの装いは、日頃着ているような胸もとがはだけた妖艶な着物ではなくて、白いティシャツに少々短めのショートパンツと実に健康的であった。

 だが、指定されたティシャツを体のサイズに合わせてを選んだつもりだったのだが、ノーブラの胸が大きすぎてシャツの裾がどうにも上がってしまうのである。

 そのため、先ほどからシャツとズボンの隙間からチラチラと白いおへそが見え隠れしていた。

 エロい! エロすぎる!

 それゆえ、メルアの前に並ぶオッサンたちはガラポンから出てくる赤玉よりも、メルアのティシャツに浮き出る二つのピンクの玉を凝視していた。

 熱を帯びるオッサンたちの玉。

 タマタマからたまたま白玉が出てきてしまいそうな勢いである。

 それはもう、猫のタマもたまげてしまうぐらいwww

 だが、そんなオッサンたちの玉にも容赦なく弾が飛んでくるwww

「このエロ野郎! 死にやがれぇぇぇ!」 パン!

 だからこそ、ネコミミのメルアは安心してガラポンの前で、ニコニコと笑いながら福引券を確認しているだけでよかったのだ。

「大当たり! またまた赤玉出ちゃいましたニャん♥」

 どうやら股間を押さえてうずくまるオッサンたちは、白玉ではなくて赤玉を吐き出しながら己がタマしいを昇天させていたようだった。


 だが、そんなメルアの顔が引きつっている。

 仕方ない……

 仕方ないのだ……

 だって、目の前のガキがいきなり頭を下げたかと思うと、公然の面前で胸を揉ませろと叫んだのだのである。

 先ほどからタマを熱くしていたオッサン達でさえ、そんなことは言わなかった。

 いや、言えなかったのだ。

 なぜなら、そんなエロワードをのたまうよりも早く、ローバンの白弾がオッサンたちの股間を撃ち抜いていた。

「エロおやじは! 消毒だぁぁァァあ!」 パンっ!

 さすがはおやじを敵視するローバンだけのことはある。


 だが、目の前の少年は、そんな弾にびくともしなかった。

 確かにローバンの放った白弾は少年の股間に直撃した……ハズなのだ。

 だが、その白弾はカンという小気味のいい音と共に跳ね返り、メルアの髪をかすめて飛んでいった。

 確かに今、地面に顔をうずめてピクピクと痙攣をおこしている。

 おこしているのだが、それは背後に立つ黒髪の少女のもつハリセンの一撃によって引き起こされたものなのだ。

 もしかして、この少年、陰茎? 隕鉄? イミテーション?

 そんなの無理無理! 絶対に無理だから‼

 日頃からいろいろな大きさや形のタマ(猫のことだよwww猫www)を相手にしているメルアでさえも、さすがに恐怖が沸き起こってくるのは仕方のないことだった。

 しかし、その恐怖をぐっと飲み込み、懸命に笑みを浮かべようとするところは、きっとその道のプロの証なのだろう。


「ちょっと待っててね」

 起き上がったタカトはビン子に叩かれた頭をこすりながらポケットの中に手を突っ込んだ。

 そして、中にあるはずのものをゴソゴソと確認しはじめたのである。

 まるでその様子は、エロ本コーナーでポケットの中に手を突っ込んで立ち読みをしている変態オッサンそのもの。

 先ほどから股間の当たりでタカトの突っ込んだ手がもぞもぞと動いていたのだった。


 その様子を見るメルアとビン子は固まっていた。

 もしかして、コイツ……こんなところで? 白玉を?

 アホなの? 変態なの? 不審者なの?


 だが、タカトは余裕の様子。

 そう、勘違いしてもらっては困るのだ。

 大体、こんな昼日中、しかも巨乳の女性の目の前でゴソゴソと白玉を出すような行為をするなんて、ありえない……こともないか……

 いやいや! そんなことするのは、立派な不審者、変態さんだけである!

 ――ふっ! 俺はそこまでアホではないわ!

 いや……十分すぎるぐらい君はA.H.O.だと作者は思うのですが……

 

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