第61話


「魔王城を掃除しよう」



唐突に俺が告げたため、全員ポカンとした顔をしている。


「余っている部屋がたくさんあるからたまには掃除するのもいいかと思ってな」


「なるほど。その発想は無かったですね」



パンドラがキリッと言い切った。

パンドラよ、かっこつけた感じで言っているが人はそれを「掃除するのが面倒くさい」と言うんだよ?


多分片付けられてないなと思っていたが、この反応だと掃除すらしていないな。



俺の今回の目的は初代魔王が言っていた呪いの道具を探すためだ。初代魔王から現魔王までの間はかなり時間が空いていたから、どこかの魔王がそれっぽいものを持って帰っていたかもしれない。


それを直すのはどこか?

そう、まだ見ぬ魔王城の3階と4階である。


外観のために作られたと言っていたが、どこかの魔王がもしかしたら物置とかに使っていたかもしれない。

だからこそ探してみる価値はあると思うのだ。



「掃除するのはいいけど、急にどうしたんだよ?」



バルカンが純粋な疑問をぶつけてくる。

なので俺も初代魔王に託されたものを話すことにした。だってみんなで探した方が早いしね。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「なるほど……そんなものが……」



パンドラが重々しく口を開いた。バルカンに至っては奥歯を噛み締めている。俺だって話を聞かされるまではそんな物騒なものがあるなんて思ってもいなかった。


「でも…この魔王城にありますでしょうか?」


「それはわからない。だが探してみる価値はあるだろ。まだ何があるかなんて把握してないし、掃除できて見つかったなんてしたら一石二鳥だからな」



そんな簡単に見つかるとは思ってはいないが、魔王城内部の確認も含めてやっておかなければならないと思う。自分の家を把握していない家主なんていないだろうし。






















「というわけで始めていこうか!」


俺達は今頭にタオルを巻き、ホウキを持って玉座の間に集合している。新年ではないが大掃除のスタートだよ。


「おおーっす!!」


ネアが元気に答えてくれる。さすが魔王城一の元気娘だ。バルカンも面倒くさそうな雰囲気を出しているがサボらないあたり彼女の真面目さが伺える。



「まずは1階と2階を掃除していこう」



早く3、4階を掃除したいと思うが、まずは普段お世話になっている場所も掃除しないと掃除と言わないしな。それと心の整理の時間も必要だ。何十年と掃除されてない部屋に行くなんてかなりの勇気がいる。


というわけで分断して掃除をしていこう。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







「ふぅ……こんなもんかな」



一通り1、2階は掃除が終わったと思う。それにしても時間が結構かかったし、かなり汚れていたな。そりゃ100年ほど掃除されてなかったんだもんな。その割には綺麗な方だったと思う。


途中何度かガラスが割れる音が聞こえたけど気のせいだよな?気のせいであってくれよ?だからパンドラ真っ直ぐこっちを見なさい、バレバレだから。












「疲れた〜〜〜〜…」



全員がぐったりしているが、本番はここからなんだよな……



そのことをみんなに伝えると「こいつ正気かよ……」という目で見られた。解せぬ……


本格的に今日はもう掃除をする気がないらしい。













というわけで次の日…………………













「今日こそ掃除を終わらせるぞ!」


「おお〜っす!!」



俺達は今日も玉座の間に集まっている。そして相変わらずネアのテンションは高い。2日連続となってしまったのでどうなるかと思ったが全員出席してくれた。



「まずは3階から掃除していくか」




そのまま全員俺にぞろぞろとついてきて、3階に上がったまではよかったが……




「気味悪りぃ……」


「ええ……」





俺の独り言にパンドラが答えてくれたが、明かりがついておらず真っ黒でジメジメしているため、不気味さが際立っていた。

フィリアとバルカンとパンドラは怖いのかプルプル震えている。逆にネアは目がキラキラしている。




「なぁ…これ掃除しても一緒だろ。引き返そうぜ?」


「あら?もしかして怖いのかしら?あの天下のバルカンが?いいですよ、引き返して一人で縮こまってなさい」


「ああ?お前こそ引き返したらどうだ?さっきからずっと膝が笑ってるぜ?」





こんな状況でもパンドラとバルカンは喧嘩することを忘れない。意地張らず怖いなら怖いと言えばいいのに。

フィリアはというと3階に上がった時からずっと俺の服の裾を掴んでいる。かわいい。


すると気づけばネアがいない。どこに行ったのかと思ったら、すごくニヤニヤしながらパンドラとバルカンにゆっくりと近づいている。


お前……なんて悪いこと考えるんだ。今ならお前の方が魔王に見えるぜ。




そして予想通り……



「……ワッ!!」


「「ギャアァァァァァァァァァァァァァァァ!?」」




2人ともそのまま俺に飛びついて来た。

真っ直ぐ鳩尾に……

なんなんだ?俺の腹に何の恨みがあるんだ?痛ぇ…


半泣き状態の2人とは対照的に、ネアはイタズラが成功した子供のように喜んでいる。




「このクソガキ……!やってくれたな……!」


「ええ…!これは躾が必要ですね……!」




すげぇ。一瞬で殺意に満ちた表情になった。共通の敵が現れた時、人って仲良くなれるよね。


しかしさっきから口ばかり動いて掃除が全く進展していないので喧嘩は止めて早くここから移動しようと思う。



「じゃあ手分けして掃除していくか」




と言ったが全員動こうとする気配は無い。

むしろ何故か俺の周りに集合する。


前からフィリアが抱き着き、右手はパンドラ、左手はバルカンに抱き着かれている。そして何かの遊びと勘違いしたネアがおんぶしているように俺の背中にしがみついている。


俺は今どこぞの合体ロボットかと思うような感じになっている。



「あの……少し離れないか?このままじゃ掃除できないんだが……」


「や〜〜!」


「お前はこんな場所に女を放置するつもりか!」


「その選択肢が一番あり得ませんよゼノン様?」


「いやっす!!」



正論を言ったら何故か俺の評価が下がった。何故だ。

これ以上言ったら殴られそうな気がするので、とりあえずフィリアとネアをしがみつかせたまま移動を開始した。


飾りだけの3階だと思ったらかなりしっかりとした造りをしている。燭台はあるみたいなので綺麗にして明かりをつけていく。そしてまずは目の前にある部屋から掃除しようとすると…




大量のホコリが部屋を埋め尽くしていた。








「ナニコレ」



えっ、マジで何これ?これ全部ホコリ?嘘だろ?

人の脳は許容上限を超えると機能しなくなるって本当だったんだな。

あの賑やかなネアでさえ静かになってしまった。


ええええっ………流石にこれはやる気が一気に削がれるな……



「ゼノン様…これどうしますか…?」


「これ……どうしよ?」



さすがにこの量は1日で片付けられないだろう。しかも部屋全部がこんな感じだったら発狂するぞほんと。


しかし掃除をするって決めたからなぁ。

パッと見る限り物はあると思うんだ。奥の方に何かがある感じがする。



「とりあえず……この部屋だけ掃除してしまおうか」



そう言って目の前にあるホコリを払いのけようと手を突っ込んだところ…







むにゅん…








何か柔らかいものに触れた。




「何だコレ?」


「どうかいたしましたか?」


「いや……ホコリの中に何かあるんだ……今布みたいなものを掴んだから引っ張って見るよ」



よくわからないが何かの服見たいな……

まさか人がいるわけじゃ無いよな?

ないない、それはないな。


そう思い軽く引っ張ってみると

























「「……ギャアァァァァァァァァァァァァ!?」」




パンドラとバルカンの叫び声が木霊した。

俺は精神と鼓膜に痛恨の一撃をくらった。





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