第51話 いざ、家庭訪問!

100メートルほどある扉だが一体どうやって開くのだろうか?まさかバルカンが人力で開けるのか?


と思っていたらバルカンが扉に付属していたパネルを操作した。すると分厚い扉が横に「スーっ」と開いた。



わかる?「ゴゴゴッ」じゃなくて「スーっ」よ?

まるで和室の襖が開くみたいに。


まさかの100メートルもする分厚い扉が自動ドアよ?

開幕からまさかドアに驚かされるとは思わなかった。



「なんでドアだけ近未来なんだよ」


「アタシも知らねーよ。村人が一度は驚くのが一連の流れなんだよ」



なんだよそのルール。祠に近未来をつけるなよ。

緊張が切れそうになったじゃねーか


喉まで出かけた不満を飲み込み、俺達は重苦しい空間に一歩踏み入れた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




祠の中は真っ暗で、太い道が続いている。

ていうか今日暗い場所ばっかりだな。


しばらく歩いているとまた分厚い扉があった。


だがさっきも見たから結末はわかるぞ。どうせまた「スーっ」と扉が開くんだろ?



「ゼノン、この扉を開けてくれ」


「なんでここは手動なんだよ!?」



まさかの手動。近未来からの手動。

入り口自動なんだからこっちも自動にしろよ!?


しかもこんな分厚い扉手動で開けれんのかよ?と思いながら扉に手をかけるとやっぱり重かった。



「おい、こんな場所で体力使うの嫌なんだけど……」


「すまん…だがここを開けないと親父に会えないんだ……」


「まぁ…それなら開けるが……じゃあそれなら今まではどうしてたんだ?」


「今までは親父が開けてくれたんだが、開けてくれないってことは相当弱ってるってことだ……」



言いながらしんみりしている。まぁ、親が弱るほど心にくるものはないよな。なんとしても笑顔になってもらいたい。



そう考えながら俺は扉を押す。そして想像通りめちゃくちゃ重い。大丈夫これ? 俺、大地押してない?


バルカンにも手伝ってもらいなんとか人が1人通れるぐらい開いた。



その隙間を通り抜けると、台座のような場所に巨大なドラゴンが寝そべっており、その側で女の人が一人で

看病をしている。



なんていうか……やっぱりデカいな。

まるで高層ビル並みの大きさだ。



そして側にいる女性に対してバルカンが話しかけた。



「お袋! 今帰った!」


「バルちゃん!?今までどこに行ってたの!?」


「悪りぃ!いろいろあったんだ!」



お袋ってことはこの人がお母さんか……

バルカンを垂れ目にしてそのままおっとりさせたような雰囲気だな。そして若い。


っていうか「バルちゃん」って呼ばれてるんだな。



「あら?そちらのお方は?そして、その魔力……」



ご指名が入ったのでそろそろ自己紹介をしよう。

どうやら魔力で俺が魔王だと気づいたようだな。

俺は人差し指を口の前に持ってきて静止させる。

まだネタバラシは早いからな。



「申し遅れました。ゼノンと言います。この度、バルカンのお父さんの呪いを解きにやって参りました。」


「ご丁寧にどうも。私は『レーネ』と言います…… って今呪いを解くって言いました!?」




バルカンの母、もといレーネさんが大変驚いていらっしゃる。




「あぁ!ゼノンはアタシを軽くいなせるほど強いんだ!!親父の呪いを解くにはゼノンに勝ってもらうしかないと思う!アタシでは勝てないから……!」



自分で勝って救いたかったのだろう、悔しさが滲み出ている。そしてこのままでは死んでしまうとわかってしまったから断腸の思いで俺に託したんだ。



ここでレーネさんが動く。



「理由はわかりました。ひとまずゼノンさんと2人で話をさせて下さい」



そう言ってこちらに近づいてくる。そして俺にしか聞こえない程度の音量で話し始めた。



「娘がお世話になっております。ところで、貴方は新しい魔王様でしょう?」



やはり俺が魔王だということに気づいていたようだ。



「ええ、私が今の魔王です。娘さんとは先程会ったばかりですが……」


「そうでしたか。あの……失礼を承知でお聞きしますが、どうして呪いを解いてくださるのですか?貴方にメリットがあるとは思えないのですが……」



まぁ、そりゃそうだよな。前魔王に呪われて、ふらっと現れた胡散臭い現魔王が解呪するっていう現状は。


だからありのままの気持ちを伝えることにした。



「そうですね……メリットでいえば、私に得はないでしょう。しかし、勝手ながら私はバルカンを仲間だと思っています。」



レーネさんは真剣に話を聞いてくれている。



「仲間が苦しめば私も辛い。それに魔王城にも彼女を待つ仲間がいます。ここからは私の勝手な意見ですが……私の部下である限りは辛い思いをしてほしくないんですよ」



そして思い出したかのように言葉を付け足す。



「あっ、それと前魔王の所業に対する現魔王の罪滅ぼしの気持ちも入ってますがね」



今言った内容は事実だ。俺の部下ならいつも笑っていてほしい。前魔王がクソだった分、忘れるくらいに幸せになってほしい。


俺の言葉を全て聞き終えたレーネさんはゆっくりとした動作で俺の目を見つめ……



「貴方様はや優しくあられるのですね……優しい主人を持って、あの子もさぞ幸せな事でしょう。そして…どうか……どうか……主人を助けて下さい……!!」



ここに来て初めて俺はレーネさんの涙を見た。

ご主人がいつ死ぬかわからない状況に陥っても娘の前では涙を見せないその姿勢は母の鏡だと思う。




だから俺がここで言える言葉は……




「任せてください」


この一言しかないだろう。



俺はそのまま炎竜王の前まで移動する。その道中バルカンとすれ違った。


バルカンも必死に涙をこらえているように見える。俺が負ければ父は死ぬ。どうしようもない現実だが受け入れなければならない。



だから俺は頭を撫でてやる。




「大丈夫だ」



そう言葉をかけ、俺はそのまま後ろを振り返らず歩いていき、炎竜王の前に到着した。


正直死ぬほど怖いが、ここまで啖呵を切った以上ビビってられないよな。




俺はそのまま炎竜王を取り巻く黒いモヤのような呪いに手を触れた。



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