第29話 秋景の森


「これはまた……驚いたな……」



扉を開けるといきなり違う場所に着くという事実にも驚いたが、それよりも目の前に広がっている日本のような景色の方が驚嘆に値する。


一面赤やオレンジ、黄色の葉で覆われており、モミジやカエデ、イチョウのような葉をつける木すらある。


地面は少し柔らかくなっており、まるで腐葉土のようだ。


綺麗な蝶々が飛んだり、木の幹からは色とりどりの キノコが生えている。



確かにこれは宴会場としても人気だろうな。

一日中いても疲れない自宅のような安心感さえある。



「ここが秋景の森、魔王国内絶景スポットの内の一つです。主にキノコやそれを主食とする動物や昆虫が多数生息しております。」



パンドラがわかりやすく解説してくれた。


確かに見える範囲内でもキノコや昆虫はもういるな。

美味しい食材がわんさかありそうだ!

ここだけでかなり強くなれそうだぞ!



俺は日本にいるような懐かしさを噛み締めながら足を一歩前に進めた。


これからネアを探すためにウロウロ歩きまわると思うから帰り道のルートも覚えておかないといけない。


俺にはガイドのスキルがあるから多分迷子になることはないと思うんだが……



「それでは移動しましょうか。あっ、魔法の扉は閉まっておきますね。」



そういうとパンドラはおもむろに魔法の扉を手にとって、カバンの中に収納した。



「では出発いたしましょう!」


「それ収納できんの!?」




魔法の扉持ち運びオッケーかよ!?

マジでどこでもドアじゃねーか!!



よりリアルになったドラ○もん要素に驚愕しながら、俺達は先へ進むことにした。




少し歩いてみたが、本当に感動するぐらいいい場所だと思う。一言で表すと「平和」だ。


本当に日本かと思うぐらい平和だ。魔物が襲ってくるわけでもなく、危険な植物が襲ってくるわけでもなくただただ穏やかな時間が流れている。




「平和だなぁ」


「そうですねぇ」




俺達は若年の老夫婦並みの会話をしながらのんびりと歩いていた。


前はこんな会話したところディメンションイーターに襲われたからな。でもこんな平和な場所では死亡フラグも存在しないだろう。きっとそうだ。そうに違いない。



と思って下を見たらとんでもなく恐ろしい死亡フラグが俺達を待ち構えていた。





[童貞ダケ]

童貞のまま死んでいったものの怨念を糧に成長するキノコ。童貞が食べると怨念に道連れにされる。女性には効果がない。






出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



ここにいやがったのか前魔王殺しめ……!

でもこれを見ていたら笑いがこみ上げてくるのは何故だろう?死に方が不憫すぎるからか?



「これは……!?」



どうやらパンドラも気づいたようだ。




「まさかこんな場所にあるなんて……! 恐ろしいですね………」


「あぁ、恐ろしいな…」




恐ろしいの意味合いが俺とパンドラでは違うだろう。

だってそうだろう。女の人には無害なんだから。



そのキノコを親の仇のように睨みつけながら俺達はその場を後にした。




また少し歩くと今度は別の食材を見つけた。

それは花のような見た目をしており、ひたすら燃え続けていた。





[ファイアフラワー]

一年中燃え続けている花。どういう原理で燃え続けているかは不明だが、正しく処理をすると食べられるようになるという。




処理の仕方知らないから結果的には食べられないってことだな。


っていうかどのエリアでも初めて見つけた食材が基本的に火関連なんだが……



しかも名前これで大丈夫か……?

某ゲームの配管工事系主人公が食べたら手から火が出るんじゃない?


俺はこの花を任○堂に送りつけたい気持ちでいっぱいになりながらスルーすることにした。


だって燃えているんだもの。手が火傷しちゃうぜ。



そこで俺はまだここに来てスキルを何も覚えていなかったことに気がついた。



俺としたことが平和すぎて食材を集めるのを忘れていた… 何か手頃な食材はないか?



すると少し離れた木の幹にキノコが生えていた。

殺人キノコもあるぐらいだから最新の注意を払いながらパンドラと一緒に採取したところ、





[ビフテキノコ]

火で炙って食べるとビーフステーキのような味がするキノコ。肉ではない分ヘルシーである。






キノコと肉の夢のコラボだった。

見た目も厚切りビーフステーキにキノコの柄が生えたような、そんな感じだ。



「ゼノン様……これとても美味しそうに見えるのですが……」



パンドラがヨダレ垂れ流しながらビフテキノコを凝視している。



「それはビフテキノコと言って、炙ったらビーフステーキみたいな味になるらしい。」



より一層目力が強くなった。



女の子がしていい顔じゃないぞ。

あとそんなに手に力を入れない。誰もとらないから。



そのあと捨てられた子犬みたいな目で俺を見てきたので、軽く炙ってから2人で食べてみた。



「うまっ!!」




とんでもなく美味かった。

まるで本物のビーフステーキを食べているかのような、そして脂っこくもない。


パンドラに至っては一言も話さず、幸せを具現化したような表情をしている。



こいつ飯食ってる時が一番幸せそうだな。




俺の場合は味はもちろんだが、スキルが肝心だ。



スキルを覚えたらしいから早速チェックしてみた。






【A5ランク】

肉の質が向上する。やったね!これで君もA5ランクの仲間入りだ!!






…………ちょっと待て!! 俺、食われんの!!??




とんでもなく恐ろしいスキルを手に入れた。


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