諦念の檻 〜僕だけに優しくない世界でも君と共に生きていたい〜
MASK⁉︎
序章
第1話 転生
僕はベッドの中にいた。ズキズキと頭が痛み、体は重く動かない。意図せずブルブルと全身が震える。
こんな経験は初めてだ。今日もいつものように仕事終わってからちょっと酒を飲んで、明日に備えてすぐに寝たはず。
息を荒げ必死に空気を取り込もうとするが、いつまで経ってもこの状況をこの打開することはできなかった。
熱に浮かされるような状態がずっと続く中、いつの間にか眠る事が出来ていたのは幸運なことだったのだろう。
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(知らない天井だ。)
一度は言ってみたいランキング上位の言葉を思い浮かべるも口の中がカラカラで声が出ない。
(み、水はどこだ。)
気怠い身体に鞭打ち、なんとかベッドの上で起き上がる。
ベッドの脇にやたらと豪華な水差しを見つけたのでコップに移し替えるのも面倒で、そのまま口をつけ中の水を飲み干した。
「あ"あ"ぁ"ぁぁぁ。」
水を飲めたお陰でこの世のものとは思えない酷い声を出せるようになった。
それがなんだか酷すぎて、苦笑しつつぼーっとした頭で周りを見渡す。
(まるで貴族か何かの部屋みたいだ。)
最初の感想はこれしか無い。
アニメや映画の中でしか見た事がないような西洋風の部屋が目に映る。綺麗な壁の模様や木に彫刻の彫られた椅子や机。絨毯はふかふかに見えてあまりに現実感が無かった。
夢だなと悟った僕は汗でベタベタとする不快感を気にしないようにしながら、またベッドに寝転ぶ。
一体何が起こったのか、寝たら夢が覚めるのか、せっかくなら堪能した方が良かったか?そんな事を考えていると次第に目蓋は重くなってきた。
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ジェイク・トリビアが目を覚ますと、そこはいつもと変わらない光景が広がる。8歳の少年の一人部屋にしては広く、調度品は数多く取り揃えられている。
もう一度寝て記憶がはっきりとしてくると自分がいかに歪な存在なのかが理解できた。
僕、つまりこの身はクラウン王国トリビア領主の息子であるジェイク。僕が特におかしいのは、ここで生まれ育ってきた8年の記憶の他に日本を生きた前世の記憶があるという点だ。いわゆる転生という奴だろう。
前世でその手の小説やアニメは見たことがあるし、ジェイクもおとぎ話を舞台に妄想を広げることが多々あったので、転生というのがすっと理解できた。
それが分かった時は思わずガッツポーズをしたくなるほど嬉しかったが、どうもそう喜んではいられないようだ。
ジェイクとしての記憶によると、僕は”黒の堕とし子”と呼ばれているらしい。酷い侮蔑の言葉として認識して良いだろう。
神話の時代、悪虐の限りを尽くした魔女を彷彿とさせる黒髪に加え、全く魔法を発動させられない体質。
この2つが主たる原因となり魔女の生まれ変わりなどと囁かれ、はっきり言ってすごい嫌われている。
今となっては生まれ変わり自体は否定できなくなったけど……。魔法が使えないと魔女っておかしいよと言った事があったようだが周りからの印象は変わっていない。むしろ反論したせいで立場が悪くなっている。
どんな正論で対抗しようが、差別する理由なんて後付けで変えられるのだから。
理解出来ない事を嫌遠するのは知っている。なんたって僕は歴史から学べる男だからな。
風邪をひいてずっと寝込んでいたというのに、水差しの中身を補充するだけで放置されているのが何よりの証拠だ。こんな豪華な部屋にいるというのに使用人の一人も付けてくれないとは酷いいじめじゃないか。
父と母もこんな不吉な子は必要ないと思っているのだろうか。
確かにジェイクには上に兄2人と姉1人、下に妹1人がいる。領主候補としての順位は3番目、可愛がるにしても年下の妹がいる。
さらに、僕以外の家族は全員この国の貴族では標準的な金髪。そんな中1人だけ黒髪であれば避けられるのは当然なのか?
しかし、しかしだ。僕はまだ生きているし、更に知識がある。前世の記憶で情報あふれる日本を生きてきた知識が。
唐突すぎてよく分からないけど”黒の堕とし子“なんて言われて避けられてる少年から成り上がれたらとっても楽しいと思う。
なればこそ、新生ジェイク・トリビアとして己の価値を家族に、そして世界に示したい。不要だなんて思わせない。
そうだ、僕はこの世界を生き抜くのだ!
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