そういう習慣

さすがにあの警官も、見た目には幼く見える悠里ユーリ安和アンナに対して露骨に敵愾心を剥き出しにはしてなかったけど、僕とセルゲイが別室で事情を聴かれてる間、婦人警官に絵本を読んでもらいながらも、ダンピールとしての聴覚は、僕とセルゲイに対する警官の発言をほとんど聞き取っていたんだ。


今は、吸血鬼やダンピールの存在を知らない、現実に存在するものだとは思ってないからこその対応だろうけど、これがもし、吸血鬼やダンピールが現実に存在していると明らかになり、その能力を詳しく知った時には、どう反応するんだろうね。


あの時の様子からすると、吸血鬼やダンピールに対しても敵愾心を抱きそうな印象はあるけど。


その点、美千穂は、誘拐されたところを僕達が助け出したとはいってもすごくニュートラルに考えてくれてるから、僕達としてもありがたい。


吸血鬼もそうだけど、人間もそれぞれ性格も考え方も価値観も違う。この事実に目を瞑って一律で対応しようとするから、齟齬が生まれる。


人間のすべてが吸血鬼に対して恐れおののき、敵愾心を向けるとは限らない。


僕達はその事実を忘れないでおこうと思う。


そんなことを考えていると、


「ところで美千穂の方は最近どうよ? フードファイターの方は?」


安和が尋ねる。すると美千穂は、


「まあまあ順調ですね。ただ、最近、フードファイトに対する風当たりが強くなってきてるらしくて、いくつかの大会が終了してたりするんです。やっぱり、『食べ物を粗末にするな』という意見はあります。


私は、競技としては勝負に徹しますけど、食べ物を粗末にするつもりはないんです。出されたものはきっちりと食べきりたいと思ってますし。


ただ、同時に、『完全に食べきるんじゃなくて少し残す』というのがマナーとされてる文化の地域もあったりて、そういうのもちゃんと理解していかないとと思います」


と応えてくれた。本当に誠実な人間だな。


彼女の言うとおり、もてなしとして食事を振る舞われた際、『満足した』というのを示すためにわずかに食べ残す習慣が残っている国や地域などもある。綺麗に食べつくすというのは、


『物足りない。お前達のもてなしはこんなものか?』


という不満を示す行為だとされてる場合もあるんだ。


もちろん、食べきることと食べ残すことのどちらが正しいのかという議論を第三者がするのはあまり意味がないと僕は思う。あくまで<そういう習慣>というだけであって、それに拘り続けるのか変えていくかは、そこに住む人間達が決めればいいことだ。


僕達が口を挟むことじゃない。


美千穂も、そう考えてるということだね。


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