どこか犬っぽい

アオと椿つばきの顔を見た後は、まずは体を休ませて気持ちも落ち着かせる。置き引きや警察でのあれこれについてクールダウンが必要だと思ったしね。


別に急ぎの旅じゃない。ミラノには四日ほど滞在することになる予定だ、


するとそこに、メッセージが。美千穂からだった。


厨崎美千穂くりやざきみちほ


カナダのトロントにある大学に通いつつ、<プロのフードファイター>として活動もしている彼女は、今ではすっかり僕達の友人だ。


人間の。


そう、彼女は普通の人間でありつつ、僕達の正体を知った上で友人でいてくれてる。


「おはようございます。って、そっちは今、夜なのかな? 昼なのかな?」


相変わらず、どこか犬っぽい人懐っこさを見せる彼女に、安和アンナは、


「こっちは今、ミラノだよ。夜中の三時」


腕を組みながら、少し横柄な態度で応えた。すると美千穂は、


「じゃあ、問題ないですね♡」


と笑顔を見せた。僕達は吸血鬼とダンピールだから本来は夜が活動時間なのを彼女はよく分かってくれてるから。安和が横柄な態度なのも、セルゲイを巡ってライバルだってこともあっての<ポーズ>だから、気にしていない。


「でも、ミラノかあ、ファッションの本場ですね。もうどこか回ったんですか?」


「そうしたいのはヤマヤマだったけど、いきなり空港で置き引きにあってね。それで警察に事情を聴かれたんだけど、そん時の警官がイケ好かない奴でさ、ロシア人を毛嫌いしてていちいち嫌味言ってくんの。マジムカつく」


「ああ~、それは大変でしたね。しかも、安和ちゃん達はロシア人じゃないのに、とんだとばっちり」


「まったくよ。いくら見た目がロシア人っぽくてパスポートでもロシア国籍になってるからって、無礼千万だっての!」


「あはは……」


そんな風に、美千穂と安和は、当然のように会話を交わしてた。何しろ、僕達の中で一番親しいのは、結局、安和だからね。二人ともセルゲイに思いを寄せていてそういう意味ではライバル関係とは言っても、安和は美千穂の人柄を認めていて、その上で、真っ向からセルゲイを巡って火花を散らすつもりなんだ。


もっとも、美千穂のセルゲイへの気持ちは、どちらかと言うと<憧れ>に近いものだろうから、そんなにシビアなものじゃないことも事実。


安和もそれは分かってる。分かった上で、今の関係を楽しんでるという面もあるだろうな。


そこに、僕が、


「警官の感情も、第二次大戦中に祖父がソ連兵に殺されたからというものもあるそうだから、そういう意味では仕方ない面もあるかもしれないんだけどね」


と付け足すと、


「ああ、そういうの、難しいですよね」


美千穂も察してくれたのだった。


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