クラ川
そうして僕達は、目的地へと辿り着いた。
そこは、雄大なコーカサス山脈を仰ぎ見るクラ川だった。遠目にはとても素晴らしい大自然を感じさせる光景なのに、すぐ近くまでくると、
「これは……」
「ひどい……」
「きったない川……」
僕と
それだけじゃなく、建築残土や産業廃棄物が大量に放置され、そこに雨などが降ることで汚染された水が河に流れ込みさらに汚染しているらしい。
日本でもかつてはこういう光景はあちこちで見られたと聞くけど、今では環境対策が進み、随分と改善されたそうだね。しかも、流れ込む川の水が綺麗になりすぎて逆に漁獲量が落ちているような海もあるとも。そこまでいってしまうと皮肉な話だけど、少なくともここよりはマシなんじゃないかな。
なにしろこの河は、隣国のアゼルバイジャンも通ってカスピ海に流れ込んでるそうだから、決してジョージアだけの問題じゃないというのもある。
自分の国の水源にもなっている河が、隣国の所為で汚染されているなんて、やっぱり気分良くないよね。そういう意味でも深刻と言えるだろうな。
加えて、環境を蔑ろにしてまで力を入れていた工業も必ずしも奮っているとは言えず、世界からの支援を受けてようやくもちこたえているような状態だそうだ。さらに観光にも力を入れようとしてるらしいけど、事実、<カフカス地域>にも含まれていることから人類の歴史上著名な出来事の舞台ともなり、歴史的には価値のある遺跡や史跡などもあるけれど、この雄大な自然も十分に観光資源になるはずが、この状態じゃあね。
水源の汚染に浄水技術が追い付いていなくて、それが原因の疾患も多いらしいし。
河原には、いくつもの魚の死骸も打ち上げられていた。汚染されていてもなお逞しく生きる魚もいるんだろうけど、それもギリギリの状態で辛うじて生きているのかもしれない。
コーカサス山脈の美しい背景には相応しくない、観光を目当てに来た人間であれば間違いなく落胆する光景だと思う。
「……」
セルゲイは、ポケットからケースを取り出し、そこに収めていた小さなナイフやピンセットを手に、魚の死骸をためらうことなく解剖し始めたのだった。
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