今は見逃してもらえていても
アオがリビングに来たから、僕は、
「コーヒー、飲む?」
と尋ねる。すると彼女は、
「あ、うん。お願い」
ってことだったから、インスタントだけどコーヒーを淹れた。特別強い拘りがあるわけでもないからね。
彼女の拘りは、ほとんどが創作に向けられてる。半面、食事やファッションに対してはほとんど向けられていない。にも拘らずそれが、子供が生まれたことでそちらにも向けられるようになった感じかな。
子供を育てることに対して拘りが発揮されるようになったんだ。
ただ、彼女のそれは 自身が恵まれなかったことの裏返しでもあると思う。両親から望まれずに生を受け、
『呼んでもないのに勝手に来たんだからせめて何かの役に立て』
とばかりに、長男のためのスケープゴートにされてきた。それを、自分の子供には味わわせたくないからと。
だから彼女にとっては、むしろ<救い>だったんだろうな。
自分の両親とはまったく違う形を取ることで、自身がこんな人間になってしまった原因が両親にあったことを確かめようという気持ちもあったんだって分かる。
そして彼女の思った通り、
アオも、素晴らしい人だけど、それが彼女自身が意識して自らの問題ある部分を律することにしているからというのは間違いなくある。
吸血鬼も人間も、何一つ間違いを犯さない、生涯ずっと完璧なままで生きる者はまずいない。
大事なのは、自身が抱える問題と向き合ってそれを律することなんだろうな。
アオは、それができているんだ。
なのに、世の中には、自身の問題と向き合わず、上手くいかないのは常に他人の所為だとして他人を攻撃する人がいる。
しかも、攻撃すること自体を、
『原因を作る方が悪い』
と言って、自身の行いを正当化しようとするんだ。
冷静に考えれば、その行いに何の正当性もないのに。
日本では<私刑>は法律で禁じられている。
『罰を与えることを目的にしている』
なら、それは<私刑>だよね。
ここまで言っても、詭弁を並べて自身を正当化しようとする人間に、理性があるとは僕は考えられないよ。自らの行いを正当化しようとしている以上は、他にも同様の行為を行っていると考えるのはむしろ自然だと思う。だとすれば、今は見逃してもらえていても、いずれはその行為を咎められる時が来る可能性がある。
だけど、それを咎められても、間違っているのは自分以外の誰かだとして、自分の行為こそが正当なものだとして、反省しないんだろうな。
もし、法的に咎められないとしても、身勝手な理由で誰かを攻撃して傷付ける可能性も高い。
アオがそんな人だったら、僕は彼女を選んでないよ。
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