恵莉花の日常 その18

千華ちかにとって恵莉花えりかは、<癒し>そのものだった。


中学の頃からすでに周囲から浮いた存在で、悪い意味で『目立っていた』彼女に普通に接してくれたのは恵莉花だけだった。


だから千華にとっては、


『恵莉花がいてくれたから大きく道を踏み外さないでいられた』


というのが間違いなくあると、千華自身が思っていた。


「マジでさ、あたしはエリのおかげでこうしてられるんだよ。エリがいなかったら、今頃、どうなってたか分からない……


親は、児童相談所から目を付けられてるから仕方なく金だけ出して責任果たしてるって体裁取ってるだけだからさ。もう半年以上、顔も見てないんだよ? 父親に至っては、二年くらいかな?見ていないよ。


これで<親>だっていうんだから笑っちゃうよね」


『笑っちゃう』


と言いつつも、口元だけは笑みの形を作りつつも、千華はまったく笑っていたなかった。むしろ<泣き顔>に近かったかもしれない。


千華は続ける。


「まあそれでも、金だけでも出してくれるだけあたしはまだ恵まれてるのかもしれないけどさ。世の中には、親がメシも与えなくて餓死した子供だっているんだろ? まともに食べるものもない食糧難の国とかじゃなくて、コンビニやスーパーで期限切れの食品とか捨てれるくらい余ってるこの日本でだぜ? 


おかしいじゃん……!」


恵莉花は千華の言葉に黙って耳を傾けた。母親のさくらや、ミハエルや、アオがそうしてくれるように。


だから千華も、自分が思ってることを素直に言葉にできる。不満を、疑問を、憤りを、素直に。


「あたしは、自分で選べるんなら絶対にあんな親のところには生まれてこなかった。やり直せるんなら余裕でやり直したいよ……


でもさ、それは無理なんだよね。人生には<リセット>みたいのはないんだってあたしも分かってる。


だからって、死ぬのもバカらしいよ。あんな親に負けて死ぬのとか、スッゲー、ムカつく! だからあたしは死んでやらない。あいつらがミジメったらしく死んでいくところを見届けるまでは死なないよ。


それでさ、仕事もさ、パートとかでいいと思うんだ。自分が生活するのがやっとってレベルの収入なら、親が頼ってきても断れるじゃん? 


ま、あいつらのことだから、兄貴の方を頼るんだろうけどさ。


でも、兄貴らもあいつらのことは嫌ってるんだよね~。あいつらの老後にどんな風に兄貴らに言われるかと思ったら、楽しみで~」


そんな千華に恵莉花も言う。


「私の親は私のことすっごく大切にしてくれてるから千華の気持ちが分かるとは言わないけど、私も千華のことは応援してる。できることだったら力になるよ」


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