秋生の日常 その12

こうして課題を終わらせると秋生あきお達は早々に片付けをして、三人で図書室へと向かった。麗美阿れみあを迎えにいくためだ。


「れ~み~あ~♡」


麗美阿れみあが図書室の戸締りをしていると、美登菜みとなが声を掛ける。


瞬間、麗美阿れみあの表情がふわりと柔らかくなった。いろいろ思うところはあってもこの関係そのものは心の支えになっているから。


でも、あまりそれを表に出すのが苦手なので、ついいつもの表情に戻ってしまう。


<仏頂面>と言われるそれに。


けれど、美登菜みとなの方も彼女がそういうものだと知っているので、構わず甘えるように腕に抱きつく。


「にゅふ~♡」


美登菜みとなの甘え方は、秋生に対するものと同じだった。だからそういう意味でも、秋生への気持ち自体、恋愛感情というよりは、やはり子供が甘えたがっているそれと同じだと思われる。




一方、そんな彼女達を、秋生は穏やかに見守っていた。


『僕は両親やあきらに丁寧に相手してもらえてたからな……それがなかったら、僕も承認欲求や他人への依存心が強いのになってたかもしれない……』


彼女達の様子を見る度にそう思わされて、だから邪険にする気にはなれなかった。


ただ、今の時点ではどうしても一方的なそれになっているのも事実。秋生がストレスを感じた時に頼る相手としては彼女達では役不足というのもあるので、負担に感じてしまうのだろう。


彼女達がいずれ人間的に成長し、逆に秋生のことを受け止められるようになれば<人生のパートナー>として選ばれる可能性もないわけではないものの、今の時点ではまだまだだった。


秋生と親しくしている彼女達でさえそうなので、他人の悪口や陰口で盛り上がったりする他の生徒はそれこそ論外と言える。


自分にとって気に入らない些細なことでイライラしそれを他人にぶつけるようなタイプでは、秋生の家庭の事情などそれこそ受け止められないだろうし。


ダンピールの父と、血の繋がらないウェアウルフの兄と、人間ではあるものの勤務時間が不規則な出版社に勤める母を持つという事情など。


相手の一面だけを見て好きになって、それから自分が思っていたのとは違う面が見えてくると、


『そんな人とは思わなかった』


などと、相手の一面しか見てこなかった自分を棚に上げて平気で言うような人間では。


だから見た目も必要以上に整えない。素がいいのでちょっと眉や髪形を整え、シャレた格好をするだけで下手なアイドル顔負けの外見になるのが分かっていたし、そういう外見だけで好かれても何一つ嬉しくない。


そうやって他人から認めてもらわなくても、家族や蒼井家の人達からしっかりと認めてもらえてるので、外見だけを評価してくる人間の評価など、無用の長物以外の何物でもなかったのだから。


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