だらしなく寛ぐ

下着丸出しでソファに寝そべる恵莉花えりかに、


『こらこら、パンツ見えてる!』


と注意した秋生あきおだったものの、実は本気で怒ってるとかじゃなかった。一応、そういう風に促しておいた方がいいというだけのことなので、そもそもあまり強くは言ってないし、家でだらしなく寛ぐことを許さないというつもりもなかった。


恵莉花と秋生のやり取りは、ただの<レクリエーション>とも言える。


しっかりとお互いを尊重した上で、ほどほどをわきまえた上でツッコミを行うだけなので。


だから険悪にまではならないものの、恵莉花と安和アンナの言い方が少しきつくなってきてたことにミハエルが釘を刺してくれたのを、椿つばきはホッとしていた。


母親であるアオがさくらを相手にきついことを言っていてもそれほど気にならないのに、恵莉花と安和が同じようにきつい言い方をしていると不思議と不安になってくる。


この辺りは、アオのそれはあくまで<作家先生キャラ>であってアオ自身が本気でエキサイトしているわけじゃないことが分かるからかもしれない。


対して、恵莉花と安和は、やはりまだ未熟な部分があって、明らかに感情が昂っていて、しかも徐々にエスカレートしてるのが感じられてしまうのだと思われる。


やがて感情を抑え切れなくなる可能性が察せられてしまって、だから不安になる感じだろうか。


アオの<作家先生キャラ>は、いくらエキサイトしても、ある点を超えると今度は<賢者モード>に移行して逆に冷静になってしまうというのもある。


そういう形で自分を制御しているとも言えるだろう。


恵莉花と安和の場合は、アオのような<作家先生キャラ>を作って、


『攻撃的な自分と、そんな自分を傍でもう一人の自分が冷静に眺めていることで自身の攻撃性を制御する』


のとは違う形だとしても、いずれにせよ自らを確実に制御できるようにならないといけない。


なにしろ<攻撃的な人間>というのは、<攻撃した相手>だけでなく、自分の周囲の人間、そして自分自身をも不幸にするのだから。


すると、スマホで何気なくネットを見ていた安和が、あるまとめサイトの記事に目を留めた。それは、アオのとはまた別のラノベの文章の一部を切り取って晒し上げているものだった。


どうやらそれが、


『キャラクターに作者自身の意見を代弁させているもので、しかもあるアニメキャラクターを貶めている』


と解釈されて攻撃の対象になっているらしかった。


そこのコメントを見ていた安和が、


「はあ……」


と呆れたように溜め息を吐きながら頭を横に振る。


「こうやって一部分を切り取って前後の文脈を分からないようにして叩くなんてのは、いわゆる<マスゴミ>って言われてるのがよくやる手法だよね~。


マスコミが同じことやると<マスゴミ>とか言って叩くのに、自分達はいいんだ? こういうことをしてる人間は、私は結婚相手には選ばないな~」


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