強要はするけど

アオはさらに言う。


「人間はさ、<失敗する生き物>なんだよね。とにかくもうしょっちゅう失敗する。私なんか、人生のうちで失敗が九割、成功が一割、って感じだよ。


だけどさ、失敗したことそのものが<不幸>ってわけじゃないんだよね。その失敗が次の成功に繋がったりもするんだ。実際、『両親の期待に沿えなかった』っていう失敗が、ラノベ作家<蒼井霧雨>誕生の原点の一つだし。


だから、結婚だって失敗したっていいと思うんだ。やってみなきゃ分からないことだってあるしさ。


でも、同時に、『失敗してもいいからとにかくやってみろ!』と強要するのも違うと思うんだよ。


他人から強要されて仕方なく結婚してそれで失敗だったりしたら、それこそ目も当てられないよ。


しかも、そうやって他人に強要する人ってさ、それが原因でダメになっても責任取ってくれないじゃん?


ああ、『強要はするけど責任は取らない』って話だと、私が高校の時にさ、ものすっごいスパルタの陸上部顧問がいてさ、とにかく『俺の言うことを聞いてればいいんだ!!』で何でもかんでも押し通すの。


で、無茶苦茶なトレーニングを選手にやらせて、その所為で体壊しちゃった生徒がいたんだよ。


だけど、その顧問は、


『この程度で壊れるような奴は向いてないから辞めた方がいい』


とか言って責任取らなかったんだ。だけど、それからも、成績を残す生徒は残すんだけど、一方で体壊す生徒も何人も出て、そうやって体壊した生徒の中には他からも注目集めてる子もいて、たぶんそれがきっかけで連盟に目を付けられて、連盟が関わってる競技会には出入り禁止になったんだってさ。


しかも噂じゃ、体壊して選手生命断たれた子の中には、大人になってからでも『あいつ殺してやる!』とまで言って恨みに思ってるのもいるんだとか。


まあ、『殺してやる』っていうのはさすがにダメだと思うけど、そこまで恨まれるってことは、無茶なトレーニングを強要された方はまったく納得できないってことだよね。


結婚にしたって、強要されて結婚したけど失敗して人生メチャクチャになったとかって話だと、そりゃ恨みにも思うよ。私だってたぶん恨むよ。


これは、結婚相手から強引に迫られて仕方なく結婚した場合にも当てはまりそうだよね。


強引に結婚を迫っておいて『失敗でした』じゃ、そりゃ、『ふざけんな!!』とも思うよ。


そんなわけで、私は、あなた達に『結婚しろ!』とも『結婚するな!』とも言わない。もし私がそんなこと言い出したら、頭がおかしくなったと思ってくれていいよ」


アオは、事あるごとにこうやって子供達に自分が学び取ったことを語って聞かせる。自分の両親が教えてくれなかった、人生にまつわる諸々について。


結婚についても、もちろんその一つなのだった。


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