種族の壁
土曜日。今日、
「あっく~ん♡」
「やあ♡」と笑顔で玄関を開けた
小学校五年生になってそれなりの大きさになってきた椿を、ウェアウルフである洸は、まるでぬいぐるみでも持ち上げるように軽々と抱き上げる。それがまた頼もしくて椿はときめく。
洸も自分を慕ってくれる椿が可愛くてぎゅっと抱き締めた。
戸籍上は三十代の洸だけれど、実年齢はまだ二十歳にもなっていない。だから椿とは十歳と離れていない。
もっとも、洸が本当に三十代だったとしても、二人さえ良ければ、将来、結婚してもいいとアオは思っていた。むしろ、相手が洸なら何の心配もない。
だから休憩のためにリビングに出てきて、洸に抱きかかえられてべったりと甘えてる椿の様子を穏やかな笑顔で見詰める。
すると、
「いいな~……」
けれど、そんな椿や安和の様子を見た恵莉花が、
「安和も椿も、そんな風に思える相手がいてすごいな~って思う」
ミハエルに出してもらった紅茶を飲みながら苦笑いしていた。
「私は結婚とか、想像もできないよ」
しみじみと漏らすように口にする。
「お父さんもお母さんも、ミハエルパパもアオママも、幸せそうなのは分かるんだよ。だけど、お父さんやミハエルパパみたいな男性とか、どこにいんの?ってのがまったくピンとこないの。
そんな恵莉花の言葉に、
「うんうん」
と大きく頷く。男性側としても、ミハエルやエンディミオンのような吸血鬼やダンピールを受け止められるような女性が果たしてどれだけいるというのか?
確かに見た目には超絶美形で、しかもミハエルは海よりも深く広い器の持ち主で恐ろしいほどに優しく、かつ財力もあるなどというチートキャラではあるものの、言っても吸血鬼であって、<種族の壁>のとてつもなさはまさに自分達が実感しているところである。
その<種族の壁>を超えて一緒に歩んでくれるような女性がどこにいるというのか?
確かに秋生自身は人間でも、父親がダンピールで兄がウェアウルフともなれば、やはり普通ではいられない。
となれば、結婚など望むべくもないというのが正直な印象だった。
「ははは……」
これにはミハエルとしても乾いた笑いしか出てこない。
何しろアオに出逢えたのは、長命な吸血鬼にとっても奇跡に等しいことなのだから。
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