父と子のコミュニケーション
「ただいま~」
平日の夕方。
「おかえり~」
「おかえり」
アオと
ミハエルと
それぞれ声を揃えて椿を迎える。
すると椿はすぐにソファーに座っていたミハエルの膝に座る。
「お父さ~ん♡」
アオは仕事部屋で仕事中だから邪魔はできないし、せっかくミハエルがいるのだからたっぷり甘えさせてもらう。
すると椿はそのままランドセルからドリルとノートを出してきて、リビングのテーブルで宿題を始めた。
これもいつもの習慣だった。三人がいない時は仕方ないけれど、いる時はこうやって一緒に宿題をする。
学校には通っていない悠里と安和も、高校生向けのテキストを使って勉強だ。
教師はもちろんミハエル。さすがに長命で膨大な経験を積んできた彼なら、人間の並みの教師では足元にも及ばないくらいに知識も豊富である。
教え方も丁寧で決して急がず、きちんと理解できたことを確認してから次に進む。
そのおかげで、逆にさくさくと次に進み、悠里は十四歳、安和は十三歳だけどもうすでに高校レベルにまで達していた。
もちろん椿も実際には中学レベルまで進んでいるものの、学校であまりそれをひけらかすといろいろとやっかまれたりすることも承知してるので、わざと<中の上>レベルに落ち着くようにもしていたりする。
なので宿題などただの<作業>でしかない。
それに、ミハエルとの勉強は、あくまで父と子のコミュニケーションの一環だった。ある意味では<遊び>と言うべきか。だから楽しくて捗るというのもある。
ミハエル自身、日本に来たばかりの頃は、日本語について、日常会話と小学生レベルの読み書きはできたものの、さすがに日本語で日本のカリキュラムを教えるということまではできなかった。それがいまや、その気になれば難関国立大学さえ余裕で合格できるのだという。
「さすがに時間があったから基礎知識については押さえてきたしね。あとは日本語の言語体系さえ掴めばなんとかなるよ」
そう言って、悠里が生まれる頃には、日本の教育カリキュラムそのものを習熟してしまったのである。
生まれてくる子供達に対して十分な教育を受けさせてあげたくて。
子供達がダンピールとして生まれてくれば、迂闊に学校には通わせられないことは分かっていた。
そうなれば自分が子供達に受けさせるのは当然のことだとミハエルは考えて備えていたということだ。
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