<布教>はやっぱり必要なのかな……

「ホンッと、人間関係ってメンドクサイよね」


家に帰るなり、小学校五年生にして椿つばきはそう達観したようなことを口走った。


「あ~、分かる。そうだよね~」


外見上は三歳くらいで椿つばきよりずっと小さいのに実年齢は十三歳になったばかりという安和アンナがバウムクーヘンを頬張りながら頷いた。


「また学校で何かあったの?」


同じようにバウムクーヘンを手にしながら、こちらもやっぱり三歳くらいにしか見えないのに実年齢は十四歳という悠里ユーリが尋ねる。


話の流れ的に学校でのことだろうなとは思いつつ。


すると椿は、テーブルの上のバウムクーヘンに手を伸ばしながら、


「そうなんだよ。山下さんと藤木さんの<推しバトル>に巻き込まれちゃってもうウンザリ」


やれやれと首を振る。その姿はまだ今年で十一歳ながら貫禄さえ感じさせた。


ミハエルと悠里ユーリ安和アンナがいない間にアオの世話をしていたことで、一気に精神的に成長したようだ。口調も仕草も安和アンナやアオに似てきている。


そんな椿の<愚痴>を、悠里と安和が聞き届けてくれる。


かつてはアオやミハエルの役目だったものが、悠里と安和も受け持ってくれるようになっていた。


こちらも、海外での経験が二人を大きく精神的に成長させていたのだろう。


こうやって蒼井家では家族がお互いに<癒し>になってくれている。


だから外で他人にそれを求める必要がなかった。アイドルなどにそれを求める必要もなかった。


そういう意味でアイドルとかに入れ込む意味が理解できない。


とは言え、


「私もさ、っくんのこと好きだから、そういう意味でアイドルとか好きになるのは分かるんだよ。でも、他の人にも『好きなれ』って押し付けんのは分かんない。


っくんの魅力が分かるのは私だけでいいよ」


椿のその言葉に、


「分かるわ~、マジ分かる。セルゲイの魅力が分かるのも私だけでいいって思うもん」


安和が深く頷く。


「だよね~♡」


<恋する少女>同士、共感するところがあるようだ。


でもそこに、


「でも、アイドルの場合は、より多くの人から人気を集めないとアイドルとしてはやってけないんじゃないかな?」


悠里が素直な印象として口を挟む。


「あ……」


その指摘に椿も安和もハッとなった。


「確かに……」


『アイドルを支える』


となれば、自分以外にもたくさんの人に好きになってもらう必要は確かに出てくる。


「そういう意味じゃ、<布教>はやっぱり必要なのかな……」


なんとなく納得させられるものを感じてしまった椿はそう言うものの、


「いやいや、でも好きでもない人を好きになれって押し付けられるのはやっぱ違うよ…!」


安和は気を取り直してそう強く語るのだった。


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