刺さる言葉

なお、今回の件について、ボリスは、自分の部下達には、


「実は今回、俺の昔の仲間で、今は特殊部隊に所属してる奴が力を貸してくれてな。さすがは特殊部隊ってこった」


と、いつの間にかゲリラ全員が殺されることもなく拘束されていた理由を説明していた。


すると部下の一人が、


「それって、今来てる社長のお客さんの…?」


などと詮索してきたが、これに対しては、


「おっと。それ以上は訊くんじゃねえ。世の中には深入りしちゃヤベぇことがあることくらい、お前らも知ってるだろ? これもそういう一つだよ」


ボリスがギラリと鋭く目を光らせながら言うと、部下達はごくりと唾を飲み、


「な…なるほど……」


と納得してくれた。


その上で、ボリスは、


「なにしろ今回、そいつは休暇でこっちに来てただけなんだ。で、俺がダチだからってことで力を貸してくれたんだが、他国の特殊部隊が勝手に<コロシ>をしたとかなっちゃ、それこそその場にいた全員の口を封じなきゃならなくなるかもしれねえ……


お前らがゲリラを殺したんだとしても、それを証明することはできないしな……」


とも口にした。すると部下達は、


「い! いいですいいです社長! それ以上聞きたくねえ!」


青い顔をしながらボリスを制した。


そんな部下達に、ボリスはニィっと破顔一笑。


「さすがは俺の部下達だ。賢いな」


満足そうに言う。


加えて、


「とにかく、何度も言うが俺達の仕事はあくまで石油を掘り出すことだ。そんな俺達が何が悲しくて<コロシ>まで手伝わされなきゃいけないんだって話だよ。


ゲリラの始末は、それを仕事にしてる奴らに任せとけばいいんだ。俺達はただ自分の身を守ればそれでいい。


世の中ってのはな、それぞれが自分の仕事ってもんを持ってんだ。


ゲリラを裁く奴。


電気椅子のスイッチを押す奴。


それぞれそいつらが選んでやってる仕事だ。


お前らがもし、ゲリラを殺す仕事がしたいってんなら、とめやしねえ。勝手にそっちに行きな……」


そこで少し言葉を切り、ボリスはゆっくりと息継ぎをした。部下達は息を飲んで見守る。


それから、


「……だが、これだけは忘れるな……


<人を殺す仕事>ってのはな、命令されたが最後、殺す相手は選べねえんだ。


たとえそれが、赤ん坊を連れて大きな腹を抱えた女でも、十になるかどうかっていうガキでもな……」


一言一言、丁寧に置くように口にしたボリスの話を、ボリスの部下達だけでなく、少し離れたところに掘られた<塹壕>の中に座っていた悠里ユーリ安和アンナも聞いていた。


「……」


二人は、言葉もなかった。ただ、決して華やかなだけじゃない過去を持つ人間のその言葉が、胸に刺さるような気がしていたのだった。


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