ダンピールの育児

いろいろと戸惑うことも多い<ダンピールの育児>ではあるものの、実を言うと<吸血鬼>と<ダンピール>には生物として明確な違いはなかった。むしろ『種として違う』と言える部分はいまだに見付かっていない。


だから基本的には吸血鬼の育て方で問題がなかった。


そうなると、ミハエルもセルゲイも、人間や吸血鬼の赤ん坊の世話をした経験もあるので、それが活かせる。


「聞いてはいたけど、<見た目>と<できること>の成長具合がここまで違うって、すごいね……」


まだ一ヶ月ちょっとだというのに自分の膝に座って自分で哺乳瓶を持ってミルクを飲んでいる悠里ユーリを見ながらアオが呟いた。


「そうだね。でも僕達から見ると人間の子供があんなにゆっくり成長することの方が『こんなにゆっくりで大丈夫なのかな?』と思ってしまうことはある」


替えた紙オムツの処分をしながらミハエルが応える。


「言われてみるとそうか…人間の子供って、小学校に上がるくらいまで留守番させるのもおっかないもんね」


そう言うアオに、


「小学校どころか、少なくとも中学に上がるくらいまでは僕は子供だけで留守番させるのには反対だな。実際に事故が起こった事例も何度も見てきた。


銃で遊んでて暴発して亡くなったっていう事例もあるし、刃物で遊んでて大きな怪我をした事例もあるし、火遊びしてて火事を起こした事例もある。


他にも、『遊んでた』っていうのじゃなくて、親が留守番してる子供に風呂を沸かすように言ってて、でもいつもは親が水を張ってるはずだったのが忘れてて、子供は親に言われた通りにお風呂を沸かそうとして空焚きになって危うく火事を起こしそうになったっていう事例もある。


子供だから親に言われたこと以外まで頭が回らなかったんだろうね。


大人だったら<うっかり>も自分の責任だろうけど、子供にその責任を負わせるのは、僕は大人の側の責任放棄だと思う。


だからさ、僕はこの子がちゃんとできるようになるまで目は離さないつもりだよ」


ミハエルは語った。それに対しアオも。


「……なんかそういうの<過保護>とか言われそうだけど、実際に事故とかが起こってるならそれに対処しないのは<無責任>だよね。


私は思うんだ。<過干渉>を<過保護>って言いかえるから分かりにくくなるだけで、保護はどこまでやっても保護でしかないと思う。


親が何でも先回りして子供に何もやらせないのは、<過保護>じゃなくて<過干渉>なんじゃないの?


私の両親が兄貴に対してやってたのがまさしく<過干渉>だったな。高校の時に兄貴が一人でイベントに行こうとしたら危ないからって兄貴が自分で予約してた新幹線の席を勝手にキャンセルしてたみたいだし。


私はそれを反面教師にしようと思ってる……」


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