第14話

「それで?

姫様、ほんとのところはどうだったの?」

手牽きミルをくるくると回しながら、探求者シェルシエルレイナルドがクラリスに問いかけた。

「レイナルド様、私がいたしますよ。」

「いいのいいの。

これ、僕の新しい趣味だから。

マヤちゃんも座ってな。

淹れたげる。」

城の内部、陽光リュミエールの塔の下層部にはクラリスの居住区がある。

その私的な居間には、クラリス、マヤ、騎士シュヴァリエライオネル、探求者シェルシエルレイナルド、そして賢者サージェテラがいた。

三人掛けソファに父と娘が座り、黒髪メイドがその背に控えている。

テーブルには、レイナルドの持ち込んだらしいサイフォンが置かれ、小型の魔動コンロにお湯も準備されている。

クラリスの向かいには、ミルを回しているレイナルド。一人掛けには、早々にコーヒーを口にしている賢者サージェ、紅髪の美女テラが座っている。

「本当のところ、私は何もしていませんのよ?

ジャルダンの建国祭に合わせて入国して、その日の夜の前夜祭の夜会に出ただけですもの。」

「そうですね。

今回、姫様は何も動かれてはいなかったですね。

あの元王子バカが勝手に自滅したようなものですが...」

珍しく言いよどんだ黒髪メイドに、テラが魔技タブレットを差し出して、見るように促した。

「ジャルダンだけでなく、他の国でもやってるようよ。

流行ってるんですって。」

魔技タブレットを受けとり、次々とページを繰る黒髪メイド。

「...馬鹿って、感染うつるんですね...。」

「流石に、コリエペタル五国の王族に連なる者がやったのは、ジャルダンだけみたいだよ。

ビブリオは下級貴族だし、プリエでは未遂だったそうだから。」

ミルで牽いた豆をサイフォンにセットしながら、レイナルドが情報を追加する。

「でも、案外、マヤちゃんが正解かもね。

花びらの国で感染が広がっているのかも。」

それまで口をつぐんでいたライオネルが、レイナルドの呟きを拾った。

「つまり、病原体ウイルスがいるということか?」

「同じような出来事が、同じようなタイミングで、別々のところで起きる...それに作為を疑わないなんて、あり得ないわね。」

空になったカップをレイナルドに示し、無言でお代わりを要求する美女に再びコーヒーを注ぐ。

「姫様が『要る』といえば、事が起きる前にお手元に情報を届けるよ?

必要なだけ。」

探求者シェルシエルの言葉に、クラリスが苦笑で答える。

「人命が損なわれるわけでも、国が危機に瀕しているわけでもないのに、情報それを求める訳にはいきませんわ。

力はふさわしい時に使わなければ。

そうでしたわね。サージェ先生?」

「ふふ。

優秀な生徒は好きよ。

姫様ならなんとでもあしらえるでしょう。

むしろ、人数が減って、ラッキーとでも思ってらっしゃるわね?」

かつての師からの切り返しに、視線を逸らせるクラリス。

「しかし、病原体ウイルスが広まっているならば、手を打たねば。

病原体ウイルスに勝てる者ばかりではなないだろう。」

ライオネルが、隣のクラリスの肩を引き寄せ、娘を気遣いながら言う。

「まあね。

ん?...マヤちゃん、どうかしたの?」

しばらく魔技タブレットを見詰め、考え込んでいる黒髪メイドに、レイナルドが水を向ける。

マヤは榛色の瞳を上げ、口を開いた。

「...私の情報が、必要ですか?

探求者シェルシエルレイナルド様。」

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