202×年×月×日

 光が差す。真っ白な光が、俺の瞳を焼き付ける。


 瞼を開くと、まるで何年も寝ていたかのように脳がクリアだった。


「ほら、やっぱり三年じゃ起きなかった」


 声がする。身体を起こして辺りを見渡すと、ここがどうやら病室であることが分かった。

 おぼつかない視線の先、白衣を着た巨乳の女性が立っている。年齢は恐らく、二十台後半といったところだろうか。


 俺の知り合いにこんな美人はいない。

 なのにどこか、懐かしい雰囲気を感じてしまう。


 その理由は、髪を見ればすぐわかった。


「おはようございます、夢寺くん。よく寝れましたか?」


 真っ白な髪で、お前みたいにバカ丁寧な口調で喋るヤツは、他にいない。


「今、西暦何年だと思います? あれから三年以上の月日が経ったことは、私を見ればわかりますよね?」


 泣きそうになる目をぐっと堪えて、俺は頷いた。


「夢寺くんが寝ている間、私、すっごく頑張りました。二次方程式で躓いていた私が、現役で医学部に入ったんですからね」


 きっと数々の苦悩があったことだろう。俺は頷く。


「なので当然、お友達と遊ぶことなんかできなくて。お花見も夏祭りも、修学旅行にさえ行っていません。そんな遊びを知らない悲しい大人になってしまいました」


 ああ、ごめんな。俺が不甲斐ないばかりに、お前に苦労させてしまった。俺は頷く。


「だから、夢寺くん」


 泣きそうな、笑いをこらえるような、様々な感情の入り混じった表情で、彼女は俺に手を差し伸べる。



「また一緒に、遊んでくれますか?」



 ああ、もちろんだ。


 まずは、どこへ行こうか。


 俺は海がいいな。


 ドデカい花火を買って打ち上げるんだ。


 スーパーの花火なんか目じゃなくて、あの時、保健室でできなかったような、デッカいヤツをだ。



「――こっちのセリフだ、バカ」



 俺は姫島の手を取った。




 俺たちの青春は、まだまだ始まったばかりだ。

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青春に憧れを抱き友達が欲しいと願う過眠症女子と、センター試験に出ないことは全て不要だと考える行き過ぎた勤勉意識が道徳観念を小学生以下にしてしまった不眠症男子 銀髪クーデレ同好会 @ginpatu_doukoukai

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