月9女優にイジられる兄妹。

「なるほどね……」


俯く椿。それを見下ろすかのように微笑むまりあさん。


椿が本当は、わがままで子供っぽい性格であることがバれ、ついでに俺のことを本当はにぃにぃと呼んでいることすらも、まりあさんに知られてしまった。


……正直、俺は別に何とも思わないけど、マイチューバ―椿ちゃんとして自己紹介した相手に対しては、見せたくない姿だっただろう。


「そっちの方が可愛いのに……。でも、こっちの椿ちゃんを知ることができるのは、私だけだもんね。それもなんだかいいかも」

「……言わないんですか?二人に」

「言っても何もメリットが無いから。それよりも……」


まりあさんが、俺に意味ありげな視線を送ってきた。


「……うふふ」


……何か企んでるな。


「それにしても、ちょっと私が桜くんにちょっかいかけたくらいで、あんなにあたふたしちゃうって、よっぽどにぃにぃのことが好きなんだね?」

「……」


椿が唇を尖らせ、無言の抗議。


「あはは。ごめんごめん。でも、こないだ相生さんと一緒に、桜くんにくっついていた時は、何も言わなかったけど、あれは我慢してたの?」

「……なんていうか、うわぁって。にぃにぃに引く気持ちの方が強かったです」

「だって。お兄さん」

「やめてくださいよ」

「楽しいなぁ。二人とも、イジりがいがあって」


悪趣味だと思う。まりあさんって、結構こういう、Sっ気の強いところあるよなぁ。


「でも椿ちゃん。桜くんとイチャイチャされるのが嫌なら、どうして部屋に閉じ込めたりなんかしたの?」

「にぃにぃが、こんな美少女と過ごしてるのに、彼女いないなんておかしいし、澄ました顔してるのもなんかむかつくから……。二人きりにしちゃえば、ドキドキして、動揺するにぃにぃが見られると思って」


……子供だな。

まりあさんが、くすくすと笑っている。まさに対称的というか……。うん。大人バーサス子供って感じがする。


「結果、私が少しだけ本気を出しちゃったから、びっくりしちゃったと」

「……少しだけ?」


椿の気持ちはわかる。でも、本当にあれは、少しだけだった。

……超本気のまりあさんは、もっとヤバいし、怖い。


「本当は、美々子さんとメイさんでも、同じことをしようと思った。でも……。もうやめにする」


椿が俺の腕に抱き着いた。


「今のこの状態、動画にしたら、すごくバズるんじゃない?」

「まりあさん……」

「冗談冗談。怒らないで?」

「……怒ってません」


椿の声色は、少し低かった。確実に不機嫌だ。


「でもね椿ちゃん。私も椿ちゃんの動画はよく見るけど……。やっぱり、気になっちゃうところはあったの」

「どこですか?」

「うん。私が普段から、演技のお仕事をしているせいかもしれないけど……。椿ちゃんは、ちょっと怖いかも」

「怖い……」

「怖いっていうか、心配?あの明るさはすごく素敵だし、それがウケて、今こうして人気者になっているとは思う。でも……。どこかで限界は来るはず。何か、心の拠り所を見つけておいた方が良いかも~って、アドバイス?ごめんね。上から目線で」

「まりあさんも、心の拠り所があるんですか?」

「それは……」


まりあさんが、一瞬俺の方に視線を向けた。


「……応援してくれる、周りの人かなぁ」


……間違ってはない、か。


「……参考にします」

「うん。これからも頑張ってね。じゃあ桜くん。私お風呂まだだから、一緒に入ろうか」

「えっ」

「だ、だめ!」

「冗談だよ~」


椿の頭を撫でながら、まりあさんは脱衣所へと消えて行った。


兄妹揃って、やられっぱなしだなぁ。


「椿。わかっただろ?まりあさんは恐ろしい人なんだ」

「わかった。……でも悔しい。あんなに可愛くて、性格も良くて、それなのに、少しお茶目で……。芸能人って、やっぱりすごいんだね」

「まりあさんは特別だと思うけどな」


ものすごく努力してるし、苦労もたくさんしてる。

それは、近くで見てきた俺が、胸を張って言えることだ。


「……もっと頑張らないと」

「あんまり気負うなよ?まりあさんも言ってたけど……。時々、見てると心配になる時、あるからさ」

「まりあさんが心配してたのは、動画に出てる私でしょ?にぃにぃが見てるのは、プライベートの私じゃん。何を心配してるの?」

「それは……」


そう言われると、具体的な言葉は、出てこないけど。


「せっかくレオナちゃんと知り合いになれたんだし、ここがこの夏の山場なの。夏休みの学生層を取り入れるには、もってこいの条件が整ってるんだから」

「……ちゃんと健康に過ごすこと。それだけ約束してくれ」

「一日中椅子に座って、パソコンとにらめっ子してる人に、言われたくないセリフナンバーワンだよ」


ごもっともだった。


「明日はレオナちゃんと買い物に行って、早速男装アイテムを買うから。その後撮影。あんまり部屋から出ないでね?レオナちゃんは、心も男の子になりきってもらうから、男のにぃにぃと顔を合わせたくない」

「そんな大げさな……」

「……にぃにぃ、顔は良いから。レオナちゃんが惚れちゃっても困るし」

「……急にどうしたんだよ」

「たまにはね。素直な妹サービス?」

「その一言がなかったら、俺は今頃ベッドの中で、お前の言葉を噛みしめていたと思うぞ」

「嘘ばっかり。妹に褒められたくらいじゃ、何も思わないくせに」

「どうだかな……。そろそろ部屋に戻るよ」

「うん。ばいばい」


……容姿のことを褒められるのは、そんなに好きじゃない。

けど、身内に言われた時くらいは、素直に受け止めておこう。

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親の命令で美少女三人と同棲することになりました。 藤丸新 @huuuyury

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