二人目の妹マイチューバ―。
「申し訳ございません。急に呼び出してしまって」
「いえいえ」
駅前で集合した後、俺たちは喫茶店……。ではなく、猫カフェに移動した。
膝に黒猫を抱えながら、幸せそうな表情をしている丸内さんは、とても可愛らしかったけど……。恐れ多くて、可愛いですね~!なんてことは言えない。
「あの、今日はどうしたんですか?」
「是非、猫を抱きながら会話しましょう」
「はい……」
近くにいた、やや小さめの猫を抱き上げた。抵抗なく腕にすっぽりとハマってくれる。本当に、よく人間に懐いてるよな。ここの猫は。丸内さんが通い詰める理由が、わかるような気がした。
「相生さんから聞きました。あなたの妹さんが、マイチューバ―の椿ちゃんというのは、本当ですか?」
美々子さん……。あんまり言いふらさないでくれって言ったのに。まぁ丸内さんなら、口が堅そうだし、良しとしよう。
「そうですよ。今ちょうど帰省してるんです」
「えぇ。それも聞きました……。で、なんですが」
「は、はい」
丸内さんが急に距離を詰めてきた。
「なんですか?」
「実は、私の妹……。
多いな……。椿のファン。
「なるほど……。それで?」
「……会わせて、あげたいなと」
「妹思いなんですね」
「そ、そういうわけでは……」
丸内さんの頬が赤くなった。猫を撫でる手がせわしなくなっている。
「椿ちゃんに憧れて、最近、マイチューバーとしてデビューしたんです。正直、ものすごく可愛い妹ですね。マイチューバ―になっていなくても、いずれ私が、事務所に推薦する予定でした。そのくらい、すっっっごく可愛い妹なんですよ」
圧がすごい。机に身を乗り出してまで主張されている。
「写真を見ますか?」
「いや」
「見せましょう」
「はい……」
丸内さんが、スマホを取り出すために、カバンを机の上に置くと、猫が逃げ出した。小さな声で、ごめんね~……。なんて呟く様は、真面目な会社員のギャップを強く感じさせられて、心にクるものがあった。
「どうですか?」
……なるほど。
丸内さんと似ていて、目元に力のある、キリっとした美少女だ。写真から見ても、髪の艶が伝わってくる。大和撫子という言葉がまさしく似合う。そんな女の子である。
「高校一年生ですから、椿ちゃんとは同い年なんです。刺激も頂けると思います。どうか、妹の今後の人生を思って、会わせてあげることはできませんか?」
「ちょ、ちょっと。頭下げないでくださいよ……」
「お願いします」
猫カフェで頭を下げたのは、多分この人だけだ。
「俺は別に……。良いと思うんですけど、椿がどう思ってるかは、ちょっと何とも。電話して訊いてみますね」
「……ありがたき幸せ」
かなり古風なお礼の言われ方をされたところで、俺は一旦外に出て、椿に電話をかけた。
「もしも~し。どうしたのにぃにぃ。私はサイダーが飲みたい」
「そういう話題じゃない」
「じゃあ、なに?」
俺は椿に、事情を説明した。
「……ちょっと待って。麗央奈って、あのレオナ?」
「あのってのが、わからないけど……。黒髪長髪の、目がキリっとした子だったな」
「間違いない……。レオナだ」
どうやら椿は知っていたらしい。
「有名なのか?」
「最近始めた子なんだけど、すっごく伸びてる。こっちに住んでるって聞いたから、帰省してる間に、一回はコラボしたいなぁなんて思ってた」
「そうなのか……。じゃあ、顔を合わせる件に関しては」
「もちろんオッケーだよ。むしろこっちからお願いしたいくらい」
「わかった。そう伝えておくよ」
「うん。で、サイダーね」
「はいはい」
店内に戻り、丸内さんに、椿から許可をもらったことを伝えると、かなり喜んでくれた。
「ありがとうございます……。あの子、きっと喜ぶと思います」
「いえいえ……。椿にさっき聞いたんですけど、妹さん、結構今、人気にが出始めてるらしいじゃないですか」
「えぇ……。まさに伸びるタイミングというか。ここでギアを入れるかどうかで、今後が大きく変わってきます。タレントも同じです。一番加速しているタイミングで、いかに仕事を入れてあげることができるか……。それがすごく重要なんですよ」
「なるほど……」
「日程については、椿ちゃんの都合もあると思うので、全面的にそちらに合わせるつもりです。あの子も夏休みですから、毎日暇してると思うので」
「わかりました。椿にもそう言っておきます」
「では、そういうことで……」
「はい」
……会話はこれで、終了だと思うけど。
丸内さんは、解散する様子はなかった。
「どうしました?あと三十五分ありますよ?猫を撫でないと損です」
「そうですね……」
正直、帰って小説を書き進めたかったけど、幸せそうに猫を抱き上げ、撫でている丸内さんの前で、帰りますだなんて言い出せなかった。
「野並くん。猫の撫で方がなってませんね……。もっとこうです。こう」
「こう、ですか?」
「違います……。はぁ……。やはり、女性を撫でる才能と比例する部分がありそうですね」
「……えっと?」
「あ、あぁいえ。今のは気にしないでください。猫に集中しましょう」
……美々子さん。一体丸内さんに、どこまで話してるんだろう。
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