あの人の姉 ~巨乳美少女の謝罪~

「野並さん。明日の午後はどうなっていましたか?」

「え。えっと……」


ここは、美々子さんの通う大学。現在昼休憩の最中。


とりあえず、スーツの上を脱いで、いわゆるクールビズ状態になりつつ、美々子さんと向かい合って会話しているが……。


……目線はすごい感じてしまうな。美々子さんが男と一緒にいるからだろうけど。これ本当に誤魔化せてるのかな。


「野並さん?」

「あ、あぁはい。えっと、明日は午後に授業があって、それから」

「夜はレコーディングでしたよね」

「そうですね」


美々子さんが自分で記入したスケジュール表を、ただ見ているだけの俺。


「相生さん。こないだの演奏会の資料の話で……」


美々子さんの友達らしき人が、話しかけてきた。俺に気が付いて、軽く会釈してくる。


「……えっと、噂の彼氏さん?」

「いやいや。マネージャーだよ?」

「あ、なんだ……。マネージャーさんか……」

「うん。それより、その噂って、誰が流してるのかな?」

「私はちょっと……。そこら中で話してる子を見かけたから」

「実は昨日、このマネージャーとファミレスでご飯を食べてて……。その時、私の顔を見て、逃げ出した子がいたの。きっと勘違いしていると思うから、見つけたら教えてほしいな」

「うん。わかった。で、資料の話なんだけど」

「相生さん。僕はちょっと、事務所に電話してくるので、席を外しますね」

「あ、わかりました。お願いします。野並さん」


……すごい違和感。お互い苗字で、しかも敬語で会話するという。


でもなんだろう。敬語の美々子さんって、ちょっと良いかも。


普段と違って、すごくおしとやかに見えるし、より美人に映るというか……。


席を外した俺は、自販機の横のベンチに座った。


しかし、ここが大学かぁ……。広いなぁ。昼休憩ということもあってか、人の移動が激しい。


俺も来年は受験生。小説のこともあるし、そこまで勉強に力を入れるつもりはないけども。一応頭には入れておこう。うん。


「あの」


それっぽく、スケジュール帳をペラペラと捲っていたところ、誰かに話しかけられた。


「はい?」


顔を上げると、そこにいたのは……。


「あなた、昨日相生さんと一緒にいた子だよね……」


ファミレスで逃げ出した女の子だ……。


「あ、えっと……。はい。あの」

「ごめんなさい!」

「え?」


いきなり頭を下げられてしまった。人目も結構ある場所なので、俺は慌ててしまう。


「私の彼氏が、適当なこと言って回ってるみたいで……。相生さんに、迷惑かけちゃってるみたいなの」

「あぁ……。それで」

「……ごめんなさい。彼氏にはきつく言っておいたんだけど」

「実は俺、み……。相生さんのマネージャーなんです。昨日はたまたまあそこで食事をしていて」

「そうだったんですか。すいません……」

「いえいえ!」

「私の名前は、神沢亜優奈かみさわあゆなです。ネットで叩くなりなんなり、好きにしてください……」

「いや、そんなことはしませんって」


……ん?神沢?


そう言えばこの人、碧先輩に少し似てるような……。


メガネを外して、髪を切ったら、そのまま碧先輩になりそうだ。


いや、でも、偶然ってこともあるしなぁ。


「でも、マネージャーにしては、お若いんですね……。てっきり年下だと思って、タメ口を使ってしまって、すいませんでした」

「あの、毎回謝らなくていいですし、頭も下げなくていいんですよ?」

「すいません」


わざとやってるのかな……。とにかく視線を集めてしまうので、やめて欲しいんだけど。


「彼氏さんと連絡は取れますか?誤解を解きたいので」

「えっと……。それが、昨日別れてしまって」

「……え」

「あの後、しつこくホテルに誘ってきたので、はい……。すいません」

「あぁだから。謝らないでくださいって」

「謝らないと呼吸ができないんです私」

「どんな体質ですか……」


……美々子さん。これは相当な曲者を引き当てちゃいましたよ。


☆ ☆ ☆


「なるほど……。そういうことか」


ここは練習室。しっかり防音機能が備わっており、カーテンさえ閉めてしまえば、視界的にも外との関わりを絶つことができる場所だ。


美々子さんはあぐらをかいて、神沢さんに視線を送っていた。


……どうやら、この人の前ではノーマルスタイルでいくらしい。


「そりゃあ彼氏が悪いよな。むしろ、あんたとエッチできなかった腹いせで、噂ばら撒いてんじゃねぇの」

「えっと……。すいません」

「謝んなって」

「……その、相生さんって、そういう風だったんだね」

「あぁ。これが普通だ。人前でやってんのはキャラクターだよ」

「そっちのほうが……。いいかも」

「は、はぁ?なんだよまともに褒めてきやがって」


美々子さんの頬が赤くなった。


ちなみに神沢さんには、マネージャー云々についても話してある。ファミレスでの一幕を見られてる時点で、どうせバレてしまうと思ったので、先に説明しておいたのだ。


……でも、それはすなわち、彼氏にも、マネージャー作戦が通用しないことを意味していて。


「……んでさ。神沢ちゃんたちは、あたしが桜の頭を撫でてるところは、見ちゃってんだな?」

「……すいません」

「だから謝んなって。おい桜。こいつの頭抑えてろよ」

「それは強引すぎるんじゃ……」

「体に謝りグセがついてんだ。ほら、もっとこう。胸を張ろうぜ神沢ちゃん。せっかく立派なもん持ってんだから!」

「……彼氏にも、同じこと言われた」


一気に空気が重たくなった。


……確かに、神沢さんの胸は、結構なボリュームを誇っていることが、服の上からでも見て分かった。


このあたりも、碧先輩と似てるんだよな……。いや、これはさすがに失礼か。


「ま、まぁほら。な?桜」

「なにが、な?なんですか……」

「すいません。私のせいで、相生さんの生活に支障を……」

「あ、あぁちょっと!なんで泣くんだよ!おい桜、泣き止ませろ!」

「無茶言わないでください!」


神沢さんの目から、大粒の涙があふれてくる。美々子さんが、あたふたしながら、その涙を拭いた。


「ごめんって。もうこの話終わりな?桜と一緒にいるところは、何人かの友達には見てもらったし、噂も落ち着くだろ。その彼氏も結構悪名高そうだしな。適当な噂だったって、明日にはみんな忘れてるから!」

「うぅ……」

「……ダメだ。全然泣き止まないぞ」


美々子さんが、深くため息をついた。


『野並……。私の作品が、誰かを傷つけてる?』


……碧先輩のことを、思い出してしまった。


顔がそっくりだから、当然泣き顔もそっくりで。


あの時は確か、背中を撫でて、慰めたんだっけ。


……同じ手が、通用するかわからないけど、やってみよう。


俺は神沢さんの背中を、優しく撫で始めた。


「……神沢さん。泣き止んでください。神沢さんは何も悪くないです」

「……本当?」

「おぉすげぇ……。涙が引いてきてるぞ。桜、どんな技使ったんだ?」

「特に何も……」


……もうここまできたら、間違いないな。


神沢亜優奈さんは、神沢碧先輩の、お姉さんだ。


こんな偶然の出会い、あるんだなぁ。


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