一番家族に近いギャル。
「お~い……。桜」
「ん……」
頭に振動を感じて目を開けると、美々子さんが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「どうしたんだよ。めちゃくちゃうなされてたぞ」
「あぁ……」
まりあさんに、二時間程度限界密着をされ、フラフラになって帰ってきて、そのままソファーで横になっていたら、眠ってしまったらしい。
「徳重ちゃん。今日は撮影なんだってな。康太のニュース見たけど……。大丈夫なのかなぁ」
「そうですね……」
「ていうか、桜どうぜ、学校サボって、一日家にいたんだろ?徳重ちゃんから、何か聞いてないのかよ。彼氏なんだし」
「だって、触れられないじゃないですか」
「まぁそうか……」
どうやら納得してくれた様子の美々子さん。
「さて、徳重ちゃんもいないし、晩飯どうしようなぁ。桜はもう食ったのか?」
「いや、まだですね」
「じゃあ、なんか出前取るか。なにが」
美々子さんがそこまで言いかけたところで、スマホが鳴った。
「おっ。あたしのだ。ちょっと待ってな……」
画面を確認した美々子さんが……。凍り付いた。
そして、俺に意味ありげな視線を送ってくる。
「……どうかしました?」
「……これ、なんだ?」
「どれです?」
「これだよ!これ!」
俺に突き付けるようにして、スマホの画面を見せてきた。
まりあさんから、画像が一枚、送られてきている。
……一つの服に、二人で入っている姿を、上から捉えた写真だ。
「これはなんだ?」
「いや、その……」
「桜、何かあたしに隠してることあるだろ!」
「か、隠してるっていうか、その」
「今日一日……。いや!昨日からのことを、一から説明してもらおうか!」
「……はい」
俺は、多少のカットはしつつも、ほとんどのことを正直に美々子さんに話した。
まりあさんが、最高の演技をする約束をしたこと。
そしてそのためには、興奮しないといけないこと……。
「……えぇ。徳重ちゃん、大胆だなぁ」
美々子さんは、若干引いた様子だった。当たり前だ。清楚なお姉さんという印象のまりあさんが、ちょっと変わったスイッチを持っていると知ったら、誰でも同じ反応をすると思う。
「じゃあ今、徳重ちゃんは、最高の演技をしてる最中ってことだな。桜のおかげで」
「だといいんですけど……」
「よく頑張ったな~お前」
「……えっ」
美々子さんが、俺の頭を優しく撫でてくれた。
……なぜだろう。美々子さんに撫でられているときは、最近あまり緊張しなくなった気がする。
女の人。というよりは、もしかすると、姉として認識し始めているのかもしれない。
「……ありがとうございます」
「おっ。やけに素直だなぁ。んで、晩飯どうする?」
「メイにも訊いてみます。もしかしたら、もうすぐ帰って来るかもしれないんで」
「そうだな~」
俺は早速、メイに電話をかけた。
「あっ。もしもし」
「ごめん桜。今日は泊まってく。明日帰る」
「そうか。仕事、お疲れ様」
「うん。あの」
「どうした?」
「徳重、大丈夫?」
……心配してくれてるのか。良い子だなぁ。
「大丈夫。康太役の俳優とも話したみたいだし」
「そっか……」
「優しいな。メイは」
「……バイバイ」
切れてしまった。素直じゃないなぁ……。
「メイ、何だって?」
「今日は向こうに泊まってくるらしいです」
「……なるほどなぁ」
「……美々子さん?」
「実は、さっきのメッセージには、続きがあるんだよ」
美々子さんが、まりあさんから送られてきた画像をスクロールした。下の方に、画像加工で文字が挿入されている。
「今日は夜通し撮影です。桜くんは私の彼氏だから、遊ばないで!……だってさ」
「……」
「つまり、徳重ちゃんは帰ってこない。メイも帰ってこない」
「……えっと。俺、部屋に籠って小説を~」
「はい、捕まえた」
美々子さんに、腕を掴まれてしまう。寝起きで上手く力が入らずに、ソファーへ引き戻されてしまった。
「あたしたちがさ。夜二人きりになるのって……。初めてだよな?」
「そうですね……」
「まだ、二人きりで寝るって約束も達成できてないし」
「あれは……。おじゃんになったんじゃないんですか?」
「なるもんか。あたしは毎日桜と一緒の布団で寝たいよ」
「……どうしてそんな」
「おいおい。照れてるのか~?」
美々子さんが、肘で俺を小突いてくる。
「って、また話が逸れたな。今は飯だ。どうする?」
「レストランのデリバリーとか、どうですかね」
「それならさ、そんなに遠くないし、歩いて行った方がいいんじゃないか?」
「でも、美々子さん、遠征の後で、疲れてるんじゃ?」
「何言ってんだよ。桜と一緒に過ごせるなら、疲れなんて吹っ飛ぶって!」
屈託のない笑顔で、言われてしまった。
本当にこの人は、裏表がないというか……。いや、日常では、清楚なヴァイオリニストの皮を被っているんだけど……。
信頼できる人。そんな風には思っている。
「じゃあ、行くか!」
「あっ、ちょっと」
さっきから掴まれたままの腕を引っ張られ、俺は立ち上がった。
……こうしてると、本当に、姉と弟みたいで。
――そう言えば、俺にも妹がいるんだったなぁと、久々に思い出させるきっかけにもなった。
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