4時限目【ガブリエル2世プニプニ大作戦】




『コレヨリ、選定ヲ開始スル』

『全テハ、世界ノ為ニ』




 ◆◆◆◆◆

 決戦の時は来た!

 本日はエリート悪魔フォルネウス2世と、ダーク天使のクロエルでタッグを組み、ガブリエル2世のマシュマロ頬っぺをプニプニする日だ!

 頑張れクロエル! 君なら出来る!

 ◆◆◆◆◆



 くくく、いつも噛み付いてばかりのガブリエル2世め! プニプニされまくってしまうがいい!


「先生、さっさと行きたいのですが」


 クロエルは心底ウザそうな表情で俺のすねをつま先で蹴りあげる。痛いんだけど?

 俺は思わず素っ頓狂な声をあげ、半泣きでクロエルを追った。だって痛いんだもの。

 解決が早いに越したことはない。朝の授業が始まる前に手早く済ませてしまおう。先手を取る!


 ROUND1


「おっはよぅ、ガブリエルよ! 今日も良い天使だなぁ! はははっ」


「何をつまらないこと言ってるの〜、キモいの〜」


 な、何だこの変質者を見るようなガブリエル2世の目は。何でこんな時に限ってノリが悪いんだよ。いるよな、そういう奴。


「あ、先生おはよっす! 見てっす、拙者、新しいパンツを買ったっすよ! これでバッチリ盗撮おっけいっす!」


 マールはひらりと制服を捲り上げた。


「バ、バカ、やめぃ! てか大声で盗撮とか言うなっての!」


 俺は慌ててチラリズムをやめさせた。

 そんな俺達の背後には只ならぬオーラを発しながら頬っぺたチャンスを待つクロエルの姿が。


「むぅっ! 変態盗撮魔なの〜! そんなフォルネウスにはお仕置きが必要なの!」


 ガブリエルは大きく口を開ける!


 キターー! 今だっ、クロエル!


 俺のアイコンタクトに反応したクロエルは、ゴバァッと、只ならぬ腐敗のオーラをまとい飛び出した! ガブリエル2世の頬っぺたとの距離、およそ数センチ、いける! プニれるぞ!


「ひぃっ、なの〜っ!? 逃げるの〜っ!」


 ガブリエル2世はギリギリで緊急停止し、クルリと反転、全速力で逃げてしまった。


「あっ! 待つっす、拙者も行くっすよ!」


 プルプル……「はぅ」

「ま、まぁ落ち着けって。チャンスはまだまだあるんだからさ」


 しかし、あのガブリエル2世が怯んだ? いったいクロエルはどんな顔してたんだ?



 ROUND2


 お昼の弁当時間がやってきた。


 それぞれ教室で机をくっつけて仲良しグループで固まっている。クロエルは、まぁ一人か。


 因みにもう一人気になるのがいるが、弁当時間になるとふらっと居なくなる。今はその子のことまで手が回らないし、とりあえずクロエルの前に座り買ってきたパンを食べる事にした。


「クロエル、自分から行動しないと距離は縮められないぞ? ほら、机持ってってみな?」


 俺はマールとガブリエルと桃色天使なモコエルの3人を指差す。

 クロエルはプルプルしながらも机を押していく。よしよし、頑張れよ。


 ギギィ、とクロエルが迫る、そうだ! 頑張れ、もう少し!

 更にギギィ……いや、音が怪しいな!


 すると、ガブリエル2世がピクンと反応する。

 あれは明らかに警戒しているぞ?


「あ、あの……っ」プルプルッ


「あ、の……よ、よよ……かっ……た……ららっ……」プルプルプルプル!!


 口ごもって震えるクロエルを大きな瞳で見上げていたマールは、ふと笑顔を見せる。


「うん、良いっすよ! 一緒に食べるっす!」


 マールは満面の笑顔で言って机を四つ並べられるように移動した。丁度ガブリエル2世の前が空いた。これはナイスだ。しかも最高の位置だ!


 ギギィ……すぅ〜


 あれ?


 ギギィ……すぅ〜


 ちょいちょい?

 ガブリエルが後退していく……!?


「何してるんすか? 2人共?」


 マールは首を傾げる。

 ガブリエルは必死にマールへ何かを訴えかけている、ように見える。


「ご、ご馳走様なの。あ、ガブ、お手洗いに行くの!」ぴゅぃん!


 ガブリエル2世は全速力で戦線を離脱した。


 プルプルプルプル!



 ROUND3



 遂に追い込まれたクロエル。

 避けられ続け、遂に放課後を迎える事になってしまった。何故か、と言っても、恐らくクロエルの負のオーラが原因なんだろうが。


 ガブリエル2世があんなに人見知りだとは思わなかった。これは誤算だ。うまくマールを巻き込んでいかないとキツいか?


「完全に嫌われた……完全に嫌われた……完全に嫌われた……嫌われた……嫌われ……ブツブツ……」


 教壇の下で小さくなり念仏を唱えるクロエル。


「おーい出て来いって。また明日があるじゃないか。今日は帰ってまた明日頑張ろうな、ほら、出て来ーい」


 はぁ、何やってんだ俺は。


 何とかクロエルを引きずり出した俺は、職員室で書類の整理をして、今日一日一度も噛み付かれなかった事を喜びながら帰路につく。すると、校庭に三つの影が映った。


 クロエルだ。

 それに、マールとガブリエル2世か。


 駆け付けようとしたが、俺はあえて、少し見守る事に決めた。


「どうしたんすか? クロエルちゃん?」


 赤いリボンがぴょこぴょこする。マールは話すたびにリボンが揺れて忙しない。


「あの、えっと……わ、わたわた、し」プルプル


 勇気を出すんだ、クロエル!


「わたしと……あ、お、おと、おとと!」


 うおー! 頑張れ! 後一息だ!


「おおお友達にっ、なって欲しいのですがっ!」


 遂に言いやがった、クロエルのやつ〜!


「良いっすよ? 一緒に弁当を食べた仲っす! ね、ガブリン?」


 軽っ!!


 マールはガブリエル2世に言った。

 ガブリエルは小さな身体をピクンと震わせ、マールに隠れて顔だけを出す。


「こ、怖い顔、しないの?」


 ガブリエル2世は震えながら言った。


「そ、そんな事、してるつもりはないのですが……?」ドキドキ! バクバク!


「な、なら、いいの〜! さっきは逃げちゃってごめんなさいなの」


 ガブリエルは少し安心した表情を見せた。


「良かったっす! 一緒に帰るっすよ。モコちゃんは今日は塾だから先に帰ったっす」


 マールが言うとクロエルが口を開いた!


「ガブリエルちゃん? あの、ちょっとお願いが……」


「なの?」


「そ、その……頬っぺをっ!」プルプルプルプル!


 まずい! クロエルの負のオーラが!


「ひ、ひぃっなのっ!?」


「プニプニしたいんですがっ!?」ピカァ〜!


「へ? なの」


 クロエルの負のオーラが消えた? それより、何だこの眩しい天使的な笑顔は! クロエルって、こんな顔して笑うんだな。


「クロエちゃん、ガブリンの頬っぺを触りたいっすね! 分かるっす分かるっす! お友達の特権っすよ、さぁ触るっす!」


「なのっ!?」


 マールはガブリエルを後ろから捕まえ拘束した。

 クロエルはゆっくりと、割れ物に触れるように……ガブリエルの頬っぺを……


 ……摘んだっ!!




 ファァァァァァーー(コーラス部一同)



 mission complete! 



「柔らかいっ! いえ、柔らかいなんてモノじゃない! 摘んだ瞬間溶けるように指が吸い込まれて、そ、それなのにしっかり張りがある!

 そして、ほんのり温かいぃぃっ!!」


 ま、眩しいっ! クロエルからあのような天使的オーラがっ! ガブリエル2世の頬っぺたはそれほどまでに極上なのか!?


 ガブリエル2世はされるがまま頬っぺをプニプニされている。拘束され、顔を真っ赤にしながらジタバタと抵抗するガブリエルは少し可愛く見えた。


「むぅ〜、や、やめるの〜くすぐったいの〜」


「あ、ごめんなさい。ついつい気持ち良くて」


 クロエルは満足した表情で笑った。もうやり残した事などない、そんな笑顔だった。


「はぅ……た、たまにはプニプニしてもいいの。お友達だからなの〜、でも、たまになの」


 ガブリエル2世も頬を赤らめ笑顔を見せた。

 ガブリエルの奴、あんな顔もするのか。そろそろ出て行ってもいいかなっと。


「よぉ、皆んな。あまり遅くまで遊んでると駄目だぞ?」


 俺は何食わぬ顔で3人に声をかける。


「先生っ分かったっす、もう帰るっす!」


「フォルネウス〜! また盗撮してたの〜?」


 いやいや、いい加減そのネタしまってくれよな。そ、それはそうと、た、確かに柔らかそうだ。

 俺はゆっくりとガブリエル2世の頬っぺに手を伸ばしてみた。少しくらいなら。


 ガブリ!


「ギャァァァッ!? ゆ、指がぁっ!」ぴゅーっ!


「へ、変態なのっ! 事案なの〜! フォルネウス、セクハラなの〜マール、クロエル、早く帰るの〜っ!」


「そ、そうっすね! 変態っすね! 事案発生っす! また明日っす先生!」


 おい、否定してくれ! と頭を抱えていると、クロエルがいつもより明るい声で言った。


「さよなら、先生」


 クロエルは去り際、スーツのポケットに何かを入れていった。3人は仲良く下校し、校庭は一気に静かになった。


 やれやれ、とりあえず、一件落着か。

 俺はポケットに手を突っ込む。すると、何も入ってなかったはずのポケットに……


 クロエルの奴、

 わざわざ用意してくれてたんだな。


 お前は優しい天使だよ。


 ◆◆◆◆◆

 フォルネウス2世のポケットの中身は大量の絆創膏だった。クロエルなりの気遣いだったのだろう。

 何はともあれ、友達になれて良かった!

 ◆◆◆◆◆















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