第87話 クッキングハイエルフⅢ~竜を運転してる間に轢いてしまった鹿を調理しよう!~
翌日の朝。
たくましい四本の足と展開した防護力場のせいか、
「……そういえば、あの後はどうなったんだいソータ? やっぱり領主様に手篭めにされたりしたの?」
「何事もありませんでしたが……逆では?」
「いやほら、貴族と平民だし……? それに言っておくけど君が思っている以上にこの国は腐ってるんだぜ?」
「聞きとうなかった……」
――もしかしてカレンは貴族の中ではかなりの良識派なのか?
――明らかに権力を背景に断れない要求を押し付けにかかっているとばかり思っていたが……。
――もしかして、無理強いしないだけ良い子なんじゃないか?
「こらっ! ウンガヨおじさん! ソウタには母様が居るんだから領主様がいくら美人だからってなびいたりはしないよ! ねえソウタ!」
「お、おう。そりゃあまあそうだよ」
――重い。無理……!
憧れは理解から最も遠い感情である。
「アスギちゃんと……? アッ、ああ、うん、そう、イインジャナイカナー」
ウンガヨにも面倒なことを掘り下げないだけの優しさがあった。
グモチュン、となにかが潰れるような音がした。
「ボルボ、ステイ」
ウンガヨは
「この辺りにベースキャンプを作らないカイ?」
「ベースキャンプ、ですか?」
「ああ、
「未踏地が危ない場合はここに引き返すんだね、ウンガヨおじさん!」
「イエス! 登山と一緒だね。少しずつ状況を探りながら進むのさ。危なくなってから慌てて休もうとしても無理ってこと!」
「ふむ……そうですね。それではそうしましょう」
友達とふざけて買った三千円のテントでキャンプに行って、雨に降られて風邪をこじらせたこともある。
――エルフに任せよう。ヒューマンに自然は難しい。
「じゃあソウタが耐えられるようにちょっとしっかりした拠点作らなきゃいけないよね、ウンガヨおじさん」
「オウイェー! じゃあソウタは料理を作っておいてもらおうかな!」
「料理? 食材は持ち込んだ保存食ぐらいしかありませんが……ああ、なるほどなるほど」
「イエス! 頼んだよ!」
「えっ、二人共なにするつもり? え? えぇ……? ま、まさかぁ……!」
「アヤヒ、命を無駄にしてはいけないよ」
「冗談でしょぉ!?」
異世界、轢殺クッキング。
今日の食材は運の悪い鹿さんです。
*
冬の森はとにかく寒い。それに危険な幻獣がそこらじゅうをうろついている。
できるだけ煙などで目立たずに暖を取る為にはどうするか。
「今日はエルフの皆さんにダコタファイアーホールを紹介したいと思います」
科学である。
「わー!」
「イェー!」
アヤヒとウンガヨさんは嬉しそうに手を叩く。
彼らの精霊魔法は強力であり、いつの間にか枯れ木と小石を組み上げて小さなプレハブ小屋(男女部屋が別)が建設されつつあるので、
「こちらダコタファイアーホールは、とある人間の部族が編み出した方法で、
「それはスゴイネ! その地面に掘った二つの穴に工夫があるのかな?」
「ウンガヨさんの仰る通り、この穴の片方にだけ枯れ枝や枯れ葉を入れて、このように火をつけます。アヤヒ、火貸して」
地面にある二つの穴のうち、枯れ枝を入れた方には、
火のついた枝を投げ込むと、穴の中で簡単に火が上がった。
「おおー!」
「スムーズだねえ」
「風が強すぎると火が消えてしまうので、穴の中で火を点けるわけですね。そして穴の中で火を点けると酸素の供給が足りなくなってしまうので、もう片方の穴から空気を補給しています」
「二つの穴が中で繋がっているんだね?」
「そのとおり」
「う~ん、ヒューマンにも関わらず見事な火起こしだ。エルフの村でもさぞ喜ばれているだろう」
「分かるよウンガヨさん。男の子はやっぱり火起こし上手じゃないとね」
――エルフ村の火起こしってそんな重要なんだ?
文化が違う。
「ともかく、これで火がついたので、鹿を煮込もうと思います。念の為に持ってきていたエルフの村のお味噌を使います。ただ、肉ばかりじゃバランスが悪いので、これから二人には山菜を探してもらいたいのですが、良いですか?」
「オウイェー!」
「任せてソウタ!」
「毒抜きは俺が錬金術でやるので、とりあえず見つけたものは持ってきちゃってください。俺はそちらのボルボ君と火を見ていますから」
ぐわぁお、と
返事の代わりである。
「オーケー! ボルボも君のことを仲間と認識しているみたいだしね!」
「じゃあエルフネギ探してくるよ、あれ好きでしょソウタ」
「肉によく合うからな」
「じゃあソウタ、君にはこのハーブを先に渡しておくよ。肉の臭み消しに使うでしょう?」
そう言ってウンガヨは隠し持っていた黄金の
「ハーブ? 一体これは……?」
ウンガヨは人差し指を唇に当ててシーと息を漏らす。
それから囁くような声で。
「
それは勿論エルフジョークだったが、
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