第68話 エルフの村にモンスター牧場ができたので、エルフ弓騎兵の訓練と近代化を進めよう!
サンジェルマン逮捕のニュースが村に届いてから一週間が経った。
「今回はお騒がせいたしました。各方面への影響を鑑みて、裏から手を回し、公的にはサンジェルマン伯爵は逮捕の後に処刑という扱いになるかと思われます」
人気の無いところで、
マリエルはそんな
「
「信用、ですか」
「そうさ。伯爵を殺すなんて言い出す相手の村に、商売道具の
サンジェルマンが倒れた後、
――暗殺計画を通じて、俺が信用できるかどうか値踏みしていた訳だ。
「ですが、実際伯爵は敵で、それを撃破した以上、我々に賭けて良いと思えるようになった……と?」
「そゆこと」
マリエルは優しい顔で微笑んだ。
――こんな顔するんだな、婆ちゃん。
少しだけ意外な思いはあったが、
「今後、俺は
「ギブ&テイクってやつだろう? こちらこそ頼むよ、村長」
――あ、ボーイ扱い脱却したっぽいぞ。
などと
「た、助けて~~~~~!」
ものすごい勢いでエルフを乗せた
「は? あ……あれは?」
「あんたのところの村人だろ。乗り方は教えたがまだ
マリエルは肩をすくめた。
「ま、まさか、うちの村人が……!」
「マリー叔母様! ちょっとあれ追いかけてくるんで
「……いまのは?」
「従妹の孫。ちょっと市街地上空を
「成程……この村は異種族に寛容ですし……技術指導員として歓迎いたします」
「悪い子じゃないが……あとは口の聞き方さえなんとかなりゃあねえ」
珍しく、マリエルは普通のおばあちゃんのようなことを言っていた。
*
それから、二人は雑木林もとい牧場の奥へと進んだ。
雑木林の片隅に、藁や枯れ枝、使わなくなって焚付にでもするしかないボロ布などを集めた
「カラス運送が前から所有していた牧場だと、親離れしたばかりの若い鳥には手狭でね。新しい環境にも慣れやすいかなと思って連れてきたのよ。そしたら三日と経たずにこの馴染みっぷり」
「良い環境だったのでしょうか?」
「想像してたより過酷だったわね。餌はまだ十分に手に入らないし、村の家畜を盗み食いしようとしてアヤヒちゃんみたいに家畜の世話に熱心なエルフたちにボコボコにされていたし、周囲だって他の
「過酷すぎでは?」
マリエルは首を左右に振る。
「だから良いんだよ。何をしちゃ不味いのか、誰が敵で誰が味方か、どうやって生きていけば良いのか、エルフたちとの生活で学ぶ機会が沢山ある。しかも腹いっぱい飯を食う為には野生の幻獣を狩る必要がある。けど身体を壊しても最低限飯は食える。そんな環境で社会生活、戦闘訓練、全部いっぺんに教え込めるんだ」
「ネヴァンの学校ですか」
「学校! ハハッ、面白い事言うねえ。本当に元教師みたいじゃないか」
マリエルはカラカラと笑っていたが、
――元の世界で言えば北海道の競走馬の放牧地に似ているな。
――あれも広い土地で全力疾走したり、
「真剣ですよ。これはとても素晴らしいことだと思います」
「只の牧場じゃないかい」
「彼らは仕事をする訓練を受けて、社会に出ます。上手くすればこの村のエルフと一緒に運び屋をやるかもしれません。人でも同じことができれば良いんですが……」
「人で? 人と
マリエルはまた笑う。
だが
「いえ、王都や小王都のスラムには、ここの
――腹立たしい。
もうそれが我慢できなくて仕方ない。なにもできない己の無力も含めて、
――俺にはスラムの子供たちに、家畜並みの環境すら用意することができない。
「麻薬の密売業者がそれを言うかね?」
「言いますよ。言わなきゃいけないんですよ。麻薬だけに頼る現状を変えなくてはいけない。麻薬だって、あれは人を癒やす薬になるんだ。今みたいな使い方だけじゃない。誰も分かってない。人間どもが理解するのは現象だけだ」
「……変な
「え?」
「この子たちも血の気が多いからねえ」
「ウ、ウス……気をつけます」
「今更ビビるんじゃないよ。シャンとおしよ」
「ウス……!」
「じゃ、中の様子も見終わったし、外出るか。行くよ! 朝から
と、二人が牧場から出ようとした時だ。
「おい村長! 朝早くから悪いが客人だ! ちょっと離れた村の長だ。お前と会って話したいんだとよ。
牧場の入口からアッサムの声がした。
――
アッサムこそが
――なのに他のエルフの村から俺に会いに来た。
「行ってきな。あたしゃここで
「……ええ」
「ビビるこたないよ。ドーンと構えな、組織を背負うってことはね。チャレンジされる側に回るってことさ。気を張り詰めるだけが戦いじゃないよ」
「……はい、ありがとうございます」
やはり奇妙だと首を捻りながら、
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