第53話 人間が引き起こした鉱害に苦しむドワーフたちを進化した耐毒スキルで癒そう!
ドワーフが土鍋で作ったキノコと鶏肉がたっぷりの
「
「いえいえ、歓迎いただき感謝いたします」
「せがれも家に戻ってきたんだが、なにせ山帰りで泥だらけだ。もう少し待っててくれ」
颯太、アヤヒ、ヌイの三人はドワーフ側の代表者と夕飯の席を囲むことになった。
三人が鍋を前にしばらく待っていると、比較的がっしりした身体つきのドワーフが部屋に入ってきた。
「や、遅れて申し訳ありませんでした」
「こちらはパーシー。儂の息子だ」
「パーシーです。この度は遠路はるばるお越しいただき、感謝いたします。わざわざここまで商談に来る
パーシーが三人にエルフ式のお辞儀をした。
――要するに、エルフの大半は商取引する知性も勤勉さも無いって言ってるようなもんじゃねえか? いや、俺もそう思うが……。
などとは言わず、
「マイタ村の村長をやっています。人間の
「アヤヒちゃんについては聞いたことが有る。ヌイちゃんの方は知らないな。
「人間です。育ての親代わりの人々の中に
「ほうほう、じゃあ案外知り合いとかいるのかもな」
「ボムという方はどうでしょう。この辺りの出身だとか」
「あー、知ってるわ。隣村の鍛冶屋の三男坊の。気のいい兄貴でな。世話になったよ。世間は狭いなあ」
「今も元気にしております」
場が温まったのを見計らってから、トーマスがコホンと咳払いをした。
「ここに集まってもらった理由は単純だ。代表者同士の話し合いで、村同士の取引を決定する」
ドワーフ側の代表者は二名。村そのものの代表がトーマスであり、鉱山で働くドワーフたちの代表がパーシーという構図だ。
「ええ、ビジネスです。エルフの村は好景気であり、農具の刷新やいくつかの設備の建設にドワーフの力を借りたい。まず関係性が良好とは言えないエルフからの仕事そのものを受けてもらえるか、受けてもらえるならお互いどれくらいの値段が相場か話し合うことですね」
パーシーはほんの少しだけ驚いた表情をした。
「いかがなさいました?」
「驚いたんだよ。エルフと違って金を支払うつもりがあるし、人間と違って食っていけるかも危うい相場を押し付けるつもりも無い。なあ親父?」
「パーシー、客人の前だぞ。そもそもアッサムが村を任せた人間とアッサムの孫娘だ。俺たちが知っている人間やエルフとは別に決まっている」
パーシーはイタズラっぽく笑って肩をすくめた。
――エルフとドワーフ、思ったよりも険悪らしいな。少数民族同士でも、部族単位の連帯は難しいか。
そう、比較的無力な人間がのさばっているのにも理由はある。
――連携は人間の特技なんだろうな。参ったな本当に。
――まあ、かくいう俺が人間である以上、険悪な種族同士の連携を進めていくしかない訳だが。
「ところでお二方、お食事の前に一つ宜しいでしょうか」
「なんだね」
パフォーマンスも兼ねて、
「今日は手土産をお持ちしました。この村が現在苦しんでいる鉱害への対策方法です」
そう聞かされて、トーマスとパーシーは二人共驚いた顔をした。
「儂らの村の鉱毒のことが分かるのか?」
「錬金術師ですので」
「錬金術……王都のサンジェルマン伯爵と同じ技術か」
「伯爵のことをご存知で?」
「辺境伯がずっと昔に、伯爵の開発した錬金術の装置を買い求めたことがあった。銅の生産量は上がったが、村はこのザマだ」
――もう少し詳しく聞きたいな。
トーマスの口から漏れた意外な名前に、今度は
しかし
「エルフの村長さんよ。あんた何者だ?」
パーシーは訝るような目で
――警戒されちゃ意味が無いか。
――でも曖昧な話をしてもこいつら乗ってくれねえよなあ。
「そのサンジェルマンの弟弟子ですよ。信じてもらえるかは別ですが、彼の技術を導入したことで、この村に起きている問題を解決したいと思っておりました」
これには、
「弟弟子?」
「はい、ですので彼の技術に由来する問題も解決可能です。例えば今ここで、お見せすることもできます」
それから
パーシーはそれまでと打って変わって真剣な表情を浮かべ、話に耳を傾けていた。
「見られるもんなら見てみたいね」
「かしこまりました。アヤヒさん。ここに出ている食事に、先程と同じ処置を」
「へ!? は、はい! 《全部綺麗にして》……って、わあぁ!?」
先程のお茶と異なり、今度は青い光が消えない。
なにやら濁った青い光になっている。
「ソウタ……じゃなくて先生! どうし……ましょう! お茶一杯くらいなら消せたけど……流石にディナー一つ分は消せません! 抽出で精一杯です!」
「それで十分。抽出したものを私のグラスに入れてください」
ドワーフの村で愛される麦酒を入れたグラスはケミカルな青い光を放っている。
それを
「なっ!? 親父! なんなんだこの人!」
「なにしてるんだあんた!?」
「見ての通りです。飲食物を汚染しているヒ素やカドミウムを精霊魔法で抽出、しかる後、錬金術のちょっとした応用で毒が効かない身体になった私がそれを吸い上げました。今の段階ではこの程度のことしかできませんが、将来的には鉱毒による被害そのものを減らすことも可能になるでしょう」
トーマスとパーシーは互いに顔を見合わせる。
二人がすっかり場の空気に飲み込まれてしまったところで、
「ドワーフの皆様からは農具だけではなく、その優れた技術も購入したいのです。私は学者であり、職人ではないのですから。エルフの村への職人の移住、武器工房の誘致、機械工作の設計など、お願いしたいことは多々あります。その際にエルフの精霊魔法を応用した食事の無毒化・弱毒化は、相互の交流と発展に向けて、実に有用な技術になることでしょう。いかがですか?」
二人のドワーフが緊張した面持ちで
「親父、こいつは……」
「パーシー、お前の言いたいことは分かる。どんな手段でこの村の現状をエルフの村長が知ったのか、その対策が簡単にできるのか、そしてそもそも人間がこの短期間でエルフの村を掌握したのか」
「それに、鉱毒が発生したのはサンジェルマンの技術ってやつが村に導入されてからだ。そういう意味でも正直怪しい……が」
「協力していただけるならばこの先の情報も包み隠さずお答えします」
二人のドワーフはしばらく黙り込む。
――少し、話を急ぎすぎたか。
そう思った
「前向きに検討させてもらおう」
「良いのかよ、親父。こいつは仕事だ。条件のすり合わせとか、内容とか」
「良いも悪いもあるか……この技術がもっと早くあれば……」
二人のドワーフはまた黙り込む。
――この家の子供になにかあったのか。子供か……子供が絡んでいるなら放っておけないな。少し気が早いけど、やるか。『吸毒』スキルの試験運用もできるし。
「村に、鉱毒で命が危険な子供は居ますか?」
「多いよ。俺たちの家だけじゃない。最近は骨がもろくなる子供も多い。俺たち
――カドミウム、骨脆弱化、イタイイタイ病か。
――逆にまだその程度で済んでいるって……本当に鉱毒への耐性があるんだなドワーフ。なら毒になる成分さえ抜けば治療はできるかもしれない。
「その子たちと会わせてくれませんか。治療を試します」
人間が勝手に押し付けた厄介事を、人間として正面から立ち向かう。
そういう意味で、麻薬の栽培も、鉱毒の解決も、
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