異世界麻薬王~元化学教師が耐毒スキルと科学知識で迫害されたエルフを救い麻王-まおう-となる~
第33話 麻薬村を焼いた悪徳貴族の城にステルス女神ドローンから空爆を行って一方的に一族郎党皆殺しにしよう!
第33話 麻薬村を焼いた悪徳貴族の城にステルス女神ドローンから空爆を行って一方的に一族郎党皆殺しにしよう!
その日、辺境伯の息子であるカルネージは、王都から馬車を走らせて父である辺境伯スクルージの下へ向かっていた。隣に座るのは将来を誓いあった従者にして幼馴染のハレナである。彼らは今日、スクルージに結婚の許可を受けに来ていた。
「カルネージ様。本当に大丈夫なのでしょうか。私のような低い身分のものがお父様にお会いして……」
「父は身分を気にせず能力を見て引き立ててくれる方だよ。僕たちの結婚だって認めてくれる筈だ」
「確かに薄汚い
「そのことなんだがね。君の亡きお父君を騎士叙勲していただけるようにと王室に働きかけていたんだよ。一代限りではあるが、君も
「カルネージ様!? まことでございますか……ああ、スクルージ様からは薄汚い亜人どもの奴隷となるか否かの危ういところを救っていただき、カルネージ様にはこんなにも深い愛を注いでいただけるなんて……ハレナは幸せでっ……きゃあ!?」
ガタッと音を立てて馬車が止まる。カルネージは前につんのめったハレナを抱き寄せる。
「大丈夫だったかい?」
「はい。お、おはずかしところを……」
「少し馬どもの調子を見てくるから待っているんだよ?」
馬車を引いているのは馬ではなかった。小柄な体格、早い足、頑丈な肉体、一般に
三人居たハーフリングのうち、一人だけ疲れ切って倒れていた。カルネージは舌打ちすると、倒れたハーフリングに近寄ってその腹を蹴る。蹴り続けながら叫ぶ。
「なにやってんだグズ! 動け! おまえたちは放っておくとすぐサボる。朝早起きして日々の仕事に勤め暗くなれば眠りまた明日に備える。なぜそれだけのことができん! 人間に似た姿をしているくせに何故そういう当たり前がわからんのだ! くそっ、どうせ夜遅くまでくだらん賭け事にでも興じていたのだろう! 王都の町中ではそこそこ便利だったが、畜生以下の仕事しかできん! ゴミだ! 貴様らはゴミクズだ!」
「坊ちゃま、そこまでに」
ハーフリングの腹を蹴り続けていたカルネージの肩に、老人が手を添える。
「亜人にも金がかかります。領内の経営に携わるものとして、私財をいたずらに損なうのはいかがなものかと。それにこの馬車もいかにも王都風が過ぎます。過度な贅沢はよろしくないのでは?」
「じいや……わ、わかったよ。じいやの言うとおりにする」
「分かっていただければ結構。都の流儀は都の流儀。辺境伯領では辺境伯領の流儀。柔軟に参りましょう」
老人が腰の刀でハーフリングたちの首輪を断ち切る。それから指笛を鳴らすと屈強な馬が現れて馬車の前に飛び出す。
ハーフリングたちは慌てて馬から逃げ出して道の端に並ぶ。
「ああ、丁度良い機会だ亜人ども。そのまま一列に並べ。スクルージ・ロードスター並びにカルネージ・ロードスターに仕えるロードスター家の家令として貴様らに暇を出す。都のスラムでも阿片窟でも好きなところに帰れ」
「お、お待ち下さい。こいつは昨日から熱が出て調子が……」
「こんなところで放り出されて私たちにどうしろと……せめて……」
「おや、これは悪いことをしたな。お前たちの言う通りだ。まったく、私がどうかしていたようだ。お前たちは学びもしなければ鍛えもしない。求めてばかりの
腰の刀を抜き放ち、三つ並んだ首へと振り抜く。その一刀は刃筋をまっすぐに頚椎の隙間へと差し入れ、いずれも一瞬で両断する。微妙に身長の異なる
そして主の死を知らぬ心臓が頸動脈から勢いよく血液を送り出し、丁度噴水のように首を打ち上げて、道端に転がる。
「お目汚し、失礼」
「いや、考えてみれば小王都に亜人を入れるのも不快だからね。構わないよ。走れない
「仰るとおりですな。それでは馬車の準備をしてまいります。しばしお待ちを」
そう言って老人は並んだ馬たちに馬具をつけた。剣士であり
「素敵ですわ! 亜人でもこんな綺麗な死に方できるのですね!」
「だろ? じいやは若い頃から父上の剣のライバルだったんだよ。俺は二人みたいな才能は無かったけど……」
「カルネージ様は商才がございます。それだって立派な武器ですわ! 亜人どもの持つ小金を阿片窟の経営で全部巻き上げてらっしゃるじゃないですか! あいつらが金を持つことが間違っているのです!」
「まあ……あの成り損ないどもにも夢を見る権利はあるからね。しっかりと店を大きくして最終的には父みたいに大きな規模のビジネスをしたいな」
「ハレナが全力でお手伝いしますから!」
「ありがとう……愛しているよ、ハレナ」
「まあ!」
「準備が終わりました。二人共、参りますよ」
老人が左手を上げると、待っていたかのようにワイバーンが降りてきて
整然と並んだ町並み、少し離れた場所にある辺境伯の居城。三角錐の形の屋根がいくつも並ぶ白い城。王族に縁の有る名家にのみ許された白塗りの城壁は、“北の小王都”の異名に恥じぬ美しさを誇っている。街の中心にありながらも数多くの
「ああ、懐かしきわが故郷よ!」
カルネージがそう叫んだ次の瞬間。赤黒い炎が轟音とともに城の一番高い塔を粉砕した。
*
「爆破の過程は任せるが、一番大きな塔から破壊した理由はなんだ」
「合理的だからよ? 象徴的だし、瓦礫が城そのものを破壊するでしょう? あと昼間でもなんだか火を点けてたから、ニトログリセリンが簡単に爆発するかなとおもって」
女神の視界を借りて、
現代戦におけるドローンを用いた空爆と大差無い。
「“水晶の夜”の団員が居ても加減するな。とにかく辺境伯と辺境伯を守りに集まってくる奴らの頭上にニトログリセリンの雨を降らせてくれ」
「あいつら取り込むんじゃないの? 戦力削れたら私たちの損よ?」
「無傷でも“水晶の夜”が怪しまれるだろう。それに今は戦っているんだ。そこまで馴れ合う理由はないし、情報漏洩による爆撃失敗のリスクが怖い」
「ヌイちゃん居たらどうするのよ、ヌイちゃん」
女神の周囲には次々とワイバーンが集まり始めている。だが一匹たりとて女神に気づく様子は無い。ワイバーンたちの隙間を縫って、彼女は飛ぶ。
「構うな、やれ。あれだけ話を聞かされて城に残るなら死にたいってことだろ。それにな、俺は奴に情けをかけたわけじゃない。あいつの腕を認めて賭けているだけだ」
「もったいないわね、可愛い女の子なのに」
「子供扱いして助けようとすることこそ、あいつへの侮辱だ。あいつはこの城の中に居たとしても、逃げて生き延びるぞ。あいつはできる。教員の頃にあいつみたいなガキの目は腐るほど見た。絶対にやるガキの目だ」
「ふ~ん、なんだか知らないけどとりあえず皆殺しよ~」
女神は中庭めがけて
目の良い弓手が居た。それは空中から突然現れたように見えた。
さてはこれが今の事件に関わっているのか?
そう考えた彼は咄嗟に袋を射抜いた。
「あっ」
城は壊さなかった。代わりに衝撃で着火したニトログリセリンは、爆炎と黒煙で中庭を蒸し焼きにする。吹き飛びすらしなかった。城内への避難は済んでいたが、丁度中庭で行われていたエルフの剥製作りは台無しになった。燃え盛った炎はその目の良い弓手の自慢の両目を舐め、脳を揺さぶる激痛と永遠の暗闇を与えた。
火柱が上がる。赤と黒の火柱が上がる。白く磨かれた城壁は黒く煤けて砕けていく。飛び散る破片が城内の人間の行く手を塞ぎ、燃え上がる炎が生命活動に不可欠の酸素を奪っていく。
城を守っていた筈のワイバーンは舞い上がる煙をまともに吸ってもがき苦しみながら高度を落としていく。彼らは
「城から逃げ出しているのはどうするの?」
「捨て置け。追いかけて時間を無駄にするリスクの方が上だ。辺境伯の血族があの群衆に混じっているなら後で暗殺を仕掛ける。それより集まってくる駐留軍と辺境伯だけを狙え」
城に繋がる
彼らの渡る橋が、爆発により派手に崩れ落ちる。
隊列の一番後ろに居たものがいくらか
城から逃げ出し始めた人々が騎士団をすり抜けてから橋の前で立ち止まる。逃げ場は無い。彼らが招待されたのはこれから始まる惨劇を眺める為の特等席だ。
「逃げたやつらは殺さなくていいの?」
「びびって濠に飛び込んだ奴から溺れ死ぬだろ。死ぬなら勝手に死なせとけ。目撃者は最低限居れば良い。それより部隊の中心に固体ニトログリセリンを投下しろ」
騎士団の中央で、凍ったニトログリセリンの粒が降り注ぎ、高熱が発生した。
鎧と鍛錬のお陰で生きている者も居るが虫の息だ。
「これでいい?」
「そいつらは殺したいが……トドメを一々刺すのは無駄が多い。それより魔剣の反応を追ってくれ」
「城の中! それより転移魔法で近くの基地から騎士がかなり城内に駆けつけているわ!」
「優先順位変更。騎士たちの基地を吹きとばせ。今回持ち出しているニトログリセリンの1/4を使っていい」
「あ、あ、あと基地に残った連中! デッケェ魔法陣書いてるわよーっ!」
「最優先で更地にしろ。手段は任せる。市街地への被害を容認する」
女神は警戒の薄くなった辺境伯領正規軍基地の上空へと転移する。彼女は神代の魔術を使い、時空を捻じ曲げ、用意していたニトログリセリンを召喚した。
無論、神であっても魔術を使えば魔力を検知され、防空網に引っかかる。この世界の人間たちも努力はしていた。基地の中では、人間の魔術師たちがこの異常事態に対応すべく、死力を尽くしていた。
「基地上空で大規模な時空属性の魔術反応!」
「大気中魔力濃度上昇が止まりません! 計器観測限界まで三、二、一、計測不能です! 生体測定器の血液が沸騰を開始しました! 上昇を続けています!」
「こちら小王都基地、王都へ連絡、敵性存在が基地上空に出現。これより対巨竜の襲撃を想定した特級防空態勢へ移行します」
「リミッター解除、基地魔力源の
「司令官、未来視が十秒後の爆撃を――」
「全法門、開け!」
この異常事態のさなか、基地上空に現れたものなど怪しいに決まっている。彼らは迷わず女神に呪術攻撃を仕掛けたし、
「ま、あたしには効かないけどね」
呪術は素晴らしい。意思の速度で攻撃に到達する。結果、呪術師たちは意思の速度で神に挑み敗北し、刹那の内に
魔術は素晴らしい。一個人が極大の火力を携行できる。結果、既に存在しない女神に向けた攻撃は空中をすり抜けて、王城の外側に広がる城下町へ着弾した。正規軍の攻撃が城下町を焼き払ったのだ。
「これ以上市民への被害が出る前に皆殺しにしろ。抵抗されれば犠牲者が――」
「大丈夫よ」
攻撃魔術によって発生した小さな火花が、既に召喚していたニトログリセリンに触れた。
「それよりそっちは?
「問題ない。城に戻って城門から順番に破壊して逃げ場を無くせ」
「大丈夫? 調子悪そうよ?」
「いいから……やれ。やるって決めたんだよ。死んでもやる」
「過労死するわよ?」
「もうしてる」
「はいはい」
女神は飛ぶ。巨大な城の門の一つ一つを吹き飛ばし、それから旋回半径を縮めて、周囲から少しずつ吹き飛ばす。
逃げ出す為の門は既に瓦礫の山だ。城の一階は外側から円を描くように囲まれて次々爆破されている。
城の中に残っていた者は二階の窓から飛び出そうとしたし、実際飛び出して骨を折り、爆発の中に飲み込まれていった。堅牢さと美しさを誇った城は、構造の変化と爆発の衝撃により自らの重さを支えられずに各所で自壊を始める。
「充分だ」
「やめるの?」
「魔剣の反応を追って持ち主に向けて渡したニトログリセリンの袋を投げ続けろ。お前が溜め込んだ分も全部使って良い」
「
女神は目をキラキラと輝かせながら飛んでいく。精髄吸収の魔剣は常に周囲の魔力を吸い込み続けている。鞘にある間も、鞘から抜けばなおのこと、魔力のない窪地のような場所が確かに城の中にあった。
「収穫タイム! 私の
謁見の間としか言いようのない部屋の玉座に、男は金細工に彩られた大太刀を抱えて座っていた。うつろな瞳で、この理不尽をただ享受していた。側近らしきものは既に居ない。だが、男はその部屋に女神が降り立った瞬間、顔を上げた。
「女神レンによく似ているな。誰の指示で来た? まさか本物の神ではあるまい」
「パラケルスス」
それは
「知らん名前だ。かつて封印された神か?」
「まあ私も名前なんてどうでもいいのよ。ねえそれよりもあなた、私のこと女神って分かる? 分かっちゃう? うふふ、流石に魔剣の持ち主だけあって――」
「黙れ
女神はこれまで
「ふふっ、部下を失い尽くしておいてよく吠えること」
いつの間にか取り出した煙草に火を点けて、煙を吐き出す。
間違いなく、この瞬間まで、女神は会話を楽しむ余裕があった。服のセンスに文句をつけられて腹が立ったとしても、それを飲み込む余裕があった。
「失われたのならばまた築き上げるだけのことだ。この星の支配者たる人類種を舐めるな。貴様を今から叩き切り、混乱する我が領地を手ずから制するとしよう」
眼鏡、金髪、小太り。とても剣士には見えないその男が、剣を構えた瞬間に女神の余裕は消えた。一瞬だけ、男の背後に金髪の女騎士の姿が重なる。それはどこか
「
「は?」
要するに、だ。
自らにそっくりの美人が、嫌いなタイプの男の側に侍っている姿を見た瞬間、女神の堪忍袋の緒が切れた。
「うるさいわこのパーツ泥棒ーッ!」
女神は真紅の大鎌で男の肩から腰にかけてを切り裂き、即座に金の剣を奪い取る。
辺境伯の身体はボコボコと泡を立てて復活しそうになったが、肉が異常に膨れ上がったり、逆に全く元に戻らない場所が出て、復活そのものが始まらない。
「あ、そうそう! 鎌にね! 抗がん剤? ってやつを仕込んでもらってたの! 細胞の分裂を阻害する毒ね! だからそんなすぐ身体は治らないし、治るまでにはあなたの魔剣は私が奪うからあなたは死ぬわ! 死ね!」
辺境伯は驚愕に目を見開き、口をパクパクと動かした後、事切れた。
「あ~やんなっちゃう! 帰る!」
女神は保有していた全てのニトログリセリンをその場に投げ捨てた。そして
「あらいけない」
彼女は帰り際にまだ火の点いた煙草をポイと投げ捨てる。
そうして、城一つを飲み込む巨大な火柱だけが残った。
「レン、基地の生き残りは居ると困る」
「じゃあ丁度良いわね。攻勢動力機関“
女神の視界を借りていた
女神が金色の剣を向けたその瞬間、基地で蠢いていた全ての影が動きを止めた。
瓦礫の隙間、救助に入った騎士や魔術師、城から逃げ込んだ一部の人々、その全てが動きを止めた。糸の切れた人形のようにくたりと倒れて、未だ消えぬ憎悪の炎の中に飲み込まれていった。
「燃料も溜まったし帰るわね!」
それは惑星開発用複合型空中元素固定装置たる“
未来における生命活動とそれに伴うエネルギーを無視した収奪。
神にも悪魔にもなれる力の片鱗だった。
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