第9話

「…あっつ…。」


 翌朝、私は暑さで目が覚めた。エアコンのリモコンを探す。冷房のボタンを押し、躊躇することなく冷蔵庫の扉を開けた。キンキンに冷えたミネラルウォーターを飲む。


「ふ…。」


 私の頭が覚めてくる。そういえば男はいない。出掛けて、まだ帰ってないんだ。


 私は持っているペットボトルをふらふら揺らしながら、体もふらふらでベッドに戻る。変わらずふかふかするベッドに座った。


 冷たいペットボトルが私の手を冷やす。頭を冷やす。多いはずの情報量をかき集めて、整理を始めた。


 それは整理するほどのことでもなかった。バンドは解散し、サトシと別れた。それだけだった。


 あとは謎の男。短時間の間に、ころころ表情が変わる不思議な男。


「何してんだろ、私。」


 下を向き、溜め息をついた。冷たいペットボトルを頬に当てる。目線が変わった私は驚いた、壁の本棚。壁一面、床から天上まで。よく見ると、並んでいるのは本じゃない。CDとLPだ。本棚のほとんどを占めている。本は少ししかなかった。


「こんなに…。」


 音楽好きじゃなかったら、こんな量のCDはない。ましてやLPなんて。そういえば私のギターも引き取った。あの男は、何者なんだろう。


 そんなこと、考えたってわかりっこない。出よう、この部屋を。でもその前に、汗をかいた体をどうにかしたい。私はまた躊躇することなくシャワーを浴びた。バスタオルは、今日もいい匂いがした。


「あ。服、どこだろ…。」


 近くを探してもない。捨てられたかな。なくもない。あんな汚れた服。私はバスタオルを肩に掛け 、そのままの姿でリビングに向かう。


 カーテンとカーテンの間から射す陽は眩し過ぎて、眩暈がしそうだった。

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