第52話 神楽坂小夜は会釈しない

「それでは今から第1回文化祭実行委員会議を始めたいと思いまーす」


 2年生の元気な声が響く。他の教室よりもやや広く、こうして会議に利用されることも多いこの視聴覚室に、1年生と2年生の文化祭実行委員が集まっていた。


 その中に私、神楽坂小夜となぜか梓伊月が含まれていた。


「どうしてこんなことに……」


「……なんかあれだな。最近よく一緒にいるよな……俺ら」


「気のせいでは?」


 私はそっぽを向きながら言った。


 どうして私たち二人が文化祭実行委員会議に出ることになったのか。


 理由は少し遡ること数日前――



「誰か文化祭実行委員やってくれる人いませんかー?」


 私と梓伊月が所属する1年2組の教室で、学級委員長がそう問いかけるが。


「「「…………」」」


 誰もやりたがる人がいなくて、空気は沈黙に包まれてしまった。


 それもそうだろう。


 文化祭実行委員になれば内申点は得られるだろうが、そこにさほど興味がなければ、ただ働きという認識にしかならないから、楽したい生徒がやりたがらないのは当然で。


 それに部活をしている人間なら、実行委員に時間を割いてしまうと部活動にリソースを分配できなくなるので、やりたがらない気持ちもわかる。


 そういった考えの人が多いため、事態の静寂という結果に落ち着いているのだろう。


 かくいう私もできればなりたくないと考えている。


 所属している文芸部に活動は皆無とはいえ、学外では授業の予習、復習を欠かさないし、習い事だってある。


 つまり暇ではないのだ。


 ですが、それは自分の都合でしかない。実際、目の前では皆さんが困っているのです。そういった方々を見捨てるということはできればしたくない。


 というか私が目指す理想の姿なら見捨てるという選択肢は選ばないはず。


 そう思案し、私はスッと挙手した。


「あの……誰もいないのでしたら私、やりますよ」


「「「おぉー」」」


 教室中に鳴り響く拍手や感謝の言葉。


「わー。神楽坂さんありがとー!ほんとに助かっちゃったよ!」


「いえいえ。お気になさらず」


 若干、勢いで立候補してしまった感は否めないですが、問題はないでしょう。


 習い事は一時中断すれば、勉学に費やす時間は確保できる。それに何事も経験が大事とも言いますしね。


 無駄じゃなかったと言えるのは私の行動次第で決まるわけです。気合入れて取り組みましょうか。


 私への歓声が鳴りやむと、学級委員長は話を進めた。


「はいはい。みんな落ち着いて。まだ男子の方が決まってないからねー」


「マジかー」


「誰かやってくれねえかなー」


 男子勢が各々の考えを口にする。


「もう話し合いの時間もないし、本来ならくじ引きで決めようかと思ってたんだけどね」


 すると、学級委員長はニコッと笑って「ここで朗報です」と宣った。


「男子の文化祭実行委員は、クラスの大事な話し合いの最中に居眠りしている梓君にしようかなーと思ってるんだけど、みんなどうかなー?」


 え!?梓伊月!?


 その名前が引き合いに出されて、私は当人の方を見る。


 うわぁ、ほんとに寝てるし。


 彼は机に突っ伏して完全に眠りについている。起きる気配がない。


 周りでは「オッケー」とか「当然だな」とか梓伊月を実行委員にする流れがすでに出来上がっていた。


 あなた、こういう目立つような仕事好きそうじゃないでしょ?なら早く起きて反論くらいしなさいよ!


 この気持ちを眼力に乗せて彼を睨みつけると、のそのそと彼は顔を上げ寝ぼけまなこをこすり始めた。


「ん?なんだ?」


「梓君、寝てたから文化祭実行委員ね」


「へ?」


 驚きの声を上げ、彼は黒板に書かれてある『神楽坂小夜』の隣の『梓伊月』という名前を視界に入れた。


 さあ、『俺はやりたくない』とでも言って反論してみなさいよ。


 一緒に活動とかになったら、暗根にまた何か変な勘繰りをされるわ。それは嫌。


 私はじっと彼の反応を虎視眈々と見据えていたのだが。


 彼は頬をポリポリと掻いたあと、私の方を見て、会釈してから控えに笑いかけてきた。



 なんで、満更でもなさそうなのよ……。



 私は妙に照れくさくて、会釈は返さずにプイッと目を逸らすことしかできなかった。




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第52話投稿日の8月3日は神楽坂小夜の誕生日(*´∀`*)

おめでと〜!!

最近僕の家の時計が動かなくなったから、ストレスが溜まったらバッキバキに壊していいよ。


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