第31話 神楽坂小夜は返信したい
「はあー」
屋敷のベランダで、私は夢の中みたいに真っ暗な夜空にポツンと輝く白い三日月を眺めながらため息を吐いた。
結局、エオンでの尾行以来、梓くんと連絡を取っていない。いや、夏休み始まってからも取ってないからもっとだ。
梓くんと暗根の関係もなんだか怖くて訊けずにいる。
それに、ゲームセンター前での風見君のことも気になっている。というか、私が抱いている不安の原因はほとんどそのことだと思う。
私は私の信念をもって梓くんと過ごしてきたつもりだけど。
風見君のあの態度を目の当たりにしたことで、私の中の正しさがぐらつき始めた。
もしかして間違ってる?もしかして無意識のうちに梓くんを傷つけてる?
そういう葛藤もあって私は梓くんと連絡を取れず、今もベランダの手すりにもたれかかって、呆けているのだ。
まだ夜じゃないと縋るような思いで黄昏ていると、ピロンと持っていたスマホから通知音が鳴った。
私はスマホのロック画面を開け、届いたメッセージを見てみると。
『突然だけど、8月3日に俺の家で勉強教えてくれないか?あと日頃の感謝も兼ねて贈りたいものもあるんだ』
「え!?あ、梓くんからっ!?」
私は目を強く見開いて、再度確認する。
やっぱり梓くんからだ……。
私の心には嬉しさと同時に迷いも生じていた。
「私が関わると、梓くんは困るのかなぁ」
スマホに落としていた目線を再び月へと移す。さっきと変わらず輝いているだけだ。
8月3日という文字を見て初めて思い出す。私の誕生日だと。
梓くんにその日が私の誕生日だと伝えた覚えはない。
「まさかね………」
一瞬、期待がよぎったが、「ふふっ」と自虐を含めて鼻で笑う。
今までもこうやって自分の都合の良いように解釈してきたから、正しい考えを見失っていたのだろうか。
とはいえ、返事はしなければならない。了承か拒否か。
涼やかな夜風に何度か吹かれながら出した答えは……。
『了解しました。ついでに晩御飯も作りに行ってあげますので、用意はしておいてくださいね』
そうメッセージを送ってから、スマホの電源を切ると、真っ暗な画面には私の笑顔が映っていた。
「変われてないなぁ」
そっと置くように言葉を残し、私は屋敷の中へ戻る。梓くんに返事をしてから夜空は一度も見ていなかった。
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