第15話 梓伊月は勝ち取りたい

 俺は屋上から降りて、購買へパンを買いに行く。


 そこはうわさには聞いていたが、大勢の生徒で溢れていた。


 行ったことはないが、バーゲンセールでごった返す主婦たちはこんななのだろうか。


 見える生徒はBランク以上がほとんどで、Dランクの俺が入れるような隙は無いように思える。


 しかし、ここで引き返すわけにはいかない。


 なんとしてもパンを買って神楽坂にパンを与えてやらないと、多分飢え死にするぞ、あの調子なら。


 人込みは苦手だが、俺は勇気を出して購買の戦争に足を踏み入れる。


「焼きそばパンとチョコクロワッサンください!」


「おい。どけっ!Dランク!」


「うわっ!」


 俺はきつく肩を押されて尻もちをついた。


 ここは闇市でもやっとんのか。


 殺伐とした状況を見て俺はどうしようかと思案する。


 が、立ち止まっていては売り切れてしまう恐れが十分にあるので、もう一度挑戦する。


「焼きそばパンとチョコクロワッサン――」


 ドスッ。


「痛ってえ」


 思いっきり足を踏まれた。


 痛すぎ。お前将来絶対ヒール履くなよと踏んできた男子に毒づく。心の中で。


 血は出てないだろうけど、歩くたびに痛みがする。


 どうしたものかと途方に暮れていると、「ほらよっ」という声が聞こえて、同時に焼きそばパンとチョコクロワッサンが俺の手元に放られた。


「風見。どうして……?」


「どうしてって。お前が焼きそばパンとチョコクロワッサンを欲しがってたんだろ?」


「そうだけど……。なんか企んでいるのか?」


「企んでなんかいねえよ。まあ気まぐれってやつだよ。だからありがたく受け取っとけって」


「じゃあせめて金くらいは――」


「いいよ。奢りで」


「マジで怖いんだが。後で怖いお兄ちゃんに襲われたりしない?」


「しねえから。俺を何だと思ってるんだよ」


「都合のいい男?」


「いっひっひ。お前のそういう素直な所ほんとおもしれえな」


「ウケを狙ったつもりないんだが」


「まあそうだろうな。いいんだよそんなことは。とりあえずこれも持っていっとけ」


 風見はそう言って、追加で俺にカレーパンも渡してきた。


「そんなに食べられないって」


「どーだろ。これくらいでも足りないんじゃないか?」


「いや、なんでお前が俺の腹事情を把握してるみたいな言い方なんだよ」


「ん?ああ。そういうことになってるんだったな」


「なんだよそういうことって」


「なんでもねえよ。ほら。早くしねえと昼休み終わっちまうぞ」


「確かにそうだな。そうさせてもらう。ありがとな風見」


「へいへい」


 俺は風見にお礼を言って購買を後にする。


 風見のこういうところだけは一年のときから変わってないなと思ったりした。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

次話から少しだけ物語が動きます。

神楽坂が○○○に誘います。

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