第26話 半分のベッド
学校から戻った凛は、家に一人でいた。
授業が終わった放課後、紗綾が凛をクラスに迎えに来て一緒に帰宅したのだが、そのあとに状況が変わる。
紗綾のスマホに届いた一本の電話。
「お母さんっ!」
紗綾の母親が、実家のある静岡から来ているという電話だった。
紗綾は明日から二日間撮影が入っていて、仕事関係者への挨拶と様子を見るために来たようだ。
さすがに母親が家に来ているのに帰らないわけにもいかなかったため、こうして凛は久し振りに一人で過ごすことになった。
最近は紗綾が料理をしてくれていたこともあり、自分で食事の用意をするのは久し振り。
凛が冷蔵庫を開けると、中には食材がそれなりに揃っている。
以前は買い出しに出るのが面倒で食材がないこともしばしばあったが、紗綾のおかげでそういうことは最近なくなっていた。
一人じゃないので当たり前ではあるのだが、紗綾が来てから凛の生活はそれなりに変わっているということだった。
その日の夕食は、レトルトソースのパスタ。
お米を炊くか迷った凛だったが、それはイコールおかずが必要ということ。
時間がないわけではなかったが、凛は面倒でパスタにした。
紗綾が来てからというもの、お風呂に入る時間帯も早くなっている。
結果ベッドに入る時間も早くなっていた。
だけど寝れない……。
妙に目が冴えている。
少しの間ベッドでゴロゴロしていると、スマホが鳴った。
暗い部屋にスマホの明かりが眩しい。
凛がいないから眠れないよぉー
紗綾も凛と同じように寝れないみたいだった。
俺もベッドで横になってるけど、紗綾と同じ(笑)
ん? 凜もお姉さんがいなくて寂しいの?
なんとなく強がりで否定したい気持ちが凛にはあったが、結局そうはしなかった。
もう紗綾がいるのが当たり前みたいになってる感じかな。
なんか落ち着かないよ。
お母さん、明後日帰るから待っててね。
この日二人は、一時間程メッセージのやり取りをして眠ることになった。
翌日、凛のお昼は久し振りのコンビニ弁当。
そしてお昼休みになっても紗綾がクラスに来ない。
凛が紗綾と会う以前の状態を見て、主に女子たちが凛を質問攻めにした。
「倉敷君、お弁当は?」
「紗綾先輩となにかあったの?」
「もしかして、喧嘩でもしちゃった?」
女子たちの質問に、紗綾の撮影のことを伝えると納得して凛は開放された。
女子たちが戻ると、次に囲んできたのは男子たち。
こっちは紗綾がいないのをいいことに、紗綾のことを根掘り葉掘り凛に問い詰める。
女子たちとは違い、男子たちの質問は少し下衆な質問。
どこまでしたのかや、紗綾のプロポーションのこと。
そして最終的には、紗綾の知り合いと合コンのセッティングをしてほしいという懇願になった。
この日は夕方からバイトが入っていたため、凛は学校が終わってそのままレストランで働いた。
いつも通りの時間まで働いて帰路につく。
だけど家に帰っても紗綾はいない。
玄関を開けると、凛を真っ暗な部屋が待っていた。
凛はなんとなく寂しい部屋だと感じた。
別に物がなくなったわけでもないし寂しいのは凛なのだが、なぜか部屋が寂しいと思ったのだ。
帰りにコンビニで買ってきたおにぎりを凛は食べて、お風呂の準備をしていると物音が聞こえたような気がした。
なんとなく気になって確認しに廊下に出ると、紗綾と目が合った。
「紗綾?」
紗綾はなにも言わずに凛に抱きついて、そのままを唇を重ねてきた。
「どうしたんですか? お母さんは?」
「会いたくなっちゃって、ちょっとコンビニに行ってくるって言って来ちゃった」
「まだ一日しか経ってないですよ?」
紗綾は時間を惜しむかのように凛の口を塞いだ。
凜も紗綾に応えていたが、不意に紗綾が離れる。
「ごめんね。そろそろ戻らないと……」
「そ、そうですよね」
紗綾の細い指が凛の指に絡まって、別れを惜しむように離れようとしない。
「あ、あのね、途中まで、送ってほしいな?」
紗綾にお願いされ、凜もまだ一緒にいられると家を出た。
もう夜でも気温は温かい。日によっては暑い日も出てくるだろう。
だがそんなこと関係ないらしく、紗綾は凛の腕を抱きしめている。
以前紗綾が言っていたように、紗綾の住むマンションは歩いて一〇分程だった。
最後にもう一度紗綾がキスをして、凛の腕を開放する。
「明日は凛のところに帰るから……この続きは明日」
少し照れていたのか、はにかみながら紗綾は言ってマンションに入っていった。
家に戻った凛はシャワーだけ浴びて、ベッドに入った。
バイトから帰ってきたときとは違い、寂しい部屋とはなぜか感じない。
紗綾がいないのは変わらないのに。
二日目の一人のベッド。
だが凛が横になっているのは、紗綾がいつも寝ている壁側を空けた半分だけだった。
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