第13話 私に教えて?
「ねぇ、凛くん? 今更なんだけど、凛くんって彼女とかいたりする?」
「彼女はいません」
「じゃぁ、好きな人はいる?」
「今のところ、そういう人もいません」
高校に入って、そういう人は凛にはいなかった。
そしてここ最近は一人暮らしに関連した家の事情で、それどころではなかったというのが実情だ。
「私ね、一人暮らししているけど、ちょっと寂しかったの。でも、凛くんと一緒にいるときは違った」
突然紗綾さんが覆い被さるように四つん這いになり、上から凛を見つめる。
サラッとしたしなやかな長い髪が凛の頬や首に触れた。
「私も、ここに来ちゃダメかな?」
紗綾さんが上になっていることもあり、今凛の目の前には紗綾さんの胸がある。
胸元は大きく開いているベビードールであり、深い谷間ができていた。
凛はなんとか意識しないようにするため、意識的に紗綾さんの目を見るようにする。
そうでもしていないと、手を持っていっていつ触ってしまってもおかしくない程心臓がドクドクと鳴っていた。
「それは……ダメなんじゃないですか?」
「イヤなの?」
紗綾さんが不満そうに問いかける。
「イヤというわけでは……」
「ちゃんとお家はあるし、お泊りに来ているような感じだよ?」
紗綾さんの身体が凛に重ねられて抱きつく。
「こうしてると、なんか落ち着くの」
紗綾さんは落ち着くと言っているが、凛はそうではなかった。
すべすべの肌が重ねられ、男子たちからいつも見られているだろうふくよかな胸が凛に押し付けられる。
それは凛を刺激してしまい、落ち着くとは真逆のことだった。
「そんな格好で抱きつかれると、ちょっと困っちゃうんですが」
注意を呼びかけた凛だったが、それを聞いた紗綾さんはまるで予想通りといわんばかりの笑顔を向ける。
「ねぇ? なにが困っちゃうの? お姉さんに相談してみて?」
紗綾さんはきっとわかっているのだ。
凛がなにを言っているのかをわかった上で、こうして問いかける。
「家だとただご飯食べて、お風呂入って寝るだけだけど、凛くんと一緒だとなにか違う。
凛くんはどう?」
「確かに、いつもとなにかが違うと思います。
特別なにかをしたとかでもないのに……言葉にするのは難しいですね」
「うん、私と一緒……凛くん、キスしたことある?」
「…………」
紗綾さんはまた腕を立て、さっきまで凛の首元の高さだった顔が、今は凛の目の前にある。
キスという言葉で意識してしまったのか、凛は紗綾さんの唇を見てしまう。
適度にぷっくりとした唇は、グロスのようなリップを塗っていたせいか妙に艷やかだ。
「私ね、まだキスしたことないの。
もしこの先女優に転向するとしたら、きっとそういうこともあると思うの。
だから、お姉さんにキスを教えて?」
少しずつ近づいてくる唇。
そして二人の唇がちょっとだけ触れた。
紗綾さんの潤んだ瞳が凛を見つめる。
「なんか、不思議な気持ち……」
「紗綾さん……これは、ダメな気がします」
紗綾さんの手がシャツのボタンとボタンの間から差し込まれ、凛の胸に手が置かれた。
紗綾さんの手に、凛の激しくなった鼓動が伝わる。
「凛くん、すごくドキドキしてるよ?」
「それはそうですよ」
「お姉さんの魅力にヤラれちゃってる?」
「それは――」
唇にやわらかい感触。
さっきのキスとは違い、何度もお互いの唇が触れる。
その度に凛の身体には、紗綾さんのやわらかい部分が乗っかってきた。
心地の良い重さ。
触れた部分はフニャっと形が変わる。
「紗綾さん、やっぱり――」
なにかを凛が言おうとしていたところに、紗綾さんが唇で塞いでしまう。
「うん、わかってるよ。だから凛くん、お姉さんのこと襲っちゃダメだゾ?
凛くんに襲われちゃったら、きっと抵抗できないから」
そう言って紗綾さんは、凛の唇に自分の唇を重ねる。
襲っちゃダメと言いながら、その紗綾が凛を襲っているといってもいい状況だった。
「――キスって、すごいね。私も、すごくドキドキしてる……。
これ、何時間でもキスしていられそう……」
紗綾さんが凛の腕の中に収まり、背中に腕を回す。
二人で抱き合いながら、数え切れないキス。
凛は情けないことに、紗綾さんにされていることに抵抗できなかった。
理性では抵抗感がある。まだあまりお互いのことを知らない。
こういうことをする関係でもない。
そんなことはわかっている。
だが紗綾さんの唇が触れる度、離れる度、また味わいたいと思ってしまう。
二人はこの日、結果的に寝落ちすることになるのだが、二人が寝たのは日付が変わってからだった。
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