7/25 「反重力力学少女と女装少年の詩-33」

「アナザー鬼ヶ島地形データ解析完了! 着陸可能ポイントデータ送ります!」

「データ確認、着陸ポイント設定、自動航空モードに以降」

「右舷より敵戦闘ヘリ接近!」

「対空ミサイルで迎え撃て!」

「了解! ミサイル撃て!」


〈鳳凰丸・改〉艦橋に怒号が飛び回る。

 アナザー鬼ヶ島からの激しい攻撃に目まぐるしく対応しているが、その実、状況はかなり良い方向に転がっていた。訓練された兵と残る記述からオーパーツとも賞される武装により、〈鳳凰丸・改〉は勢いを落とすことなくアナザー鬼ヶ島への着陸を成功させる。


「上陸部隊急げ! 鬼ヶ島を制圧するぞ!」


 船体下部のハッチが開き、中で控えてきたイヌ・サル・キジ・その他の精鋭が飛び出した。その「その他」の中に、僕と桃太郞はいた。


 桃太郞は自身がどんな存在なのか、よく知らない僕とゾウに手短に教えてくれた。未来から過去へ渡る、人間と逆の時間感覚を持つ人ならざる存在。そのカギとなるのが彼らの有する歴史遺伝子ヒストームであるが、桃太郞は六〇〇年前の人物なのでこの時代の歴史遺伝子を持ち合わせていなかった。しかしこの〈鳳凰丸・改〉の副船長であるマサルがデータから作製した人工歴史遺伝子を血液中に注入することで、一時的にこの時代でも未来が視えるようになっているらしい。正直ほとんど理解できなかったが、「ようは予知能力があるってことですよ」と最後に言われたのでそういう認識でいくことにした。


〈鳳凰丸・改〉が降り立ったのは敵軍基地から離れた森林だった。

 そしてそこには特徴的な草が生えていた。

 いや、これはそもそも草なのか……。


「バラン?」


 よく寿司の仕切りで入ってるプラスチックの草みたいなやつが繁茂していた。『どうやら、こっちの世界線ではバランが普通の植物として存在しているみたいだ』とはゾウの感想だが、今はこんなことに気を取られている場合ではなかった。


「っ――」


 突如として桃太郞に頭を掴まれ、僕は地面に伏せ付けられる。

 何事かを理解しきる暇もなく、銃声が鳴り響き頭上を弾丸が通り過ぎた。「ひぇ」と僕は声を漏らす。そして僕を掴んだまま、桃太郞は上方に跳躍した。

 その懐で光る物がある。それは、恐らくさっき見せてもらった超小型反重力エンジンだ。ピンポン玉ほどのそれは桃太郞曰く人間二人を持ち上げるのがやっとという出力らしいが、それでも元々の超人的な身体能力が使うことでその様は空を飛ぶ天狗のようであった。木々の生える森林区域に入れば、もはや敵はいない。幹や枝を踏み台として飛び回り、敵を翻弄した挙げ句に飛びかかって倒す。首根っこを掴まれたままの跳躍に僕を殺すのはこの人なのではないかと泣きそうになったところで、僕はやっと地上に降ろされる。


「ふぅ、ここまで撒ければ十分でしょう。走りますよ!」


 息を整える間もなく桃太郞が駆け出す。僕もその姿を見失わないように、バランを踏みつけながら森の中をひいこら走る。

 森から抜け、軍事施設への道路であろうコンクリートの地面が現れる。

 そこで待ち構えていたのは、スキンヘッドの巨漢だった。胴体にクロスするように弾薬のベルトを提げ、手には人間相手には過剰すぎないかというマシンガンを手にしていた。


「ヒャッハー! 蜂の巣にしてやるぜぇ!」


 そんなんで撃たれたら蜂の巣じゃなくてミンチじゃないか! と僕は進行方向を反転させる。しかし、隣の桃太郞は動じることなくその場に立っていた。何か策でもあるのか――と僕が足を止めたその瞬間、巨漢の真上から高速の何かが降ってきた。


「ファイナル・バード・ストラアアアアアイク!!」


 それは一羽のキジだった。神速の突進が巨漢の脳天に直撃し、脊椎、脚を経由してコンクリートの地面に亀裂を入れる。男はそのまま白目をむき、後ろにどしんと倒れ込んだ。


「いやはや、小生の飛翔もまだまだ捨てたものではございませんな!」

「アカバネさん!」


 ナチュラルにキジが喋って桃太郞が駆け寄っていく。まぁ、キジでも喋るか、うん。


「敵の親玉を倒しにいくのでござろう? ならば小生も桃太郞氏と共に参らせていただく」

「アカバネさんが来てくだされば百人力です!」


 キジを仲間に加え、僕達はさらに進む。

 やがて辿り着いたのは、鬼ヶ島中央の山脈の内部へと通じる地下通路の入り口だった。そこがこの島のかなめらしく、たくさんの武装兵がそこで待ち構えていた。

 僕達は建物の陰に隠れ、敵の様子を窺う。


「どうするんですか桃太郞さん?」

「しっ……目を瞑って、口を開けて。最後に耳を塞いでください」

「えっ――」


 とりあえず言われるがままにする。

 刹那、瞼を下ろしていても感じられるような強い光と爆発音が起こった。敵集団から困惑と悲鳴が聞こえてくる。僕が目を開けたときには、もう桃太郞とキジは横からいなくなっていた。


「え、ちょっと」


 見てみれば、閃光手榴弾で目潰しをされた敵をばったばったと倒していた。そこには桃太郞とキジに加え、さらにイヌとサルが加わっていた。


「まったく、お前達は突っ込むのが好きすぎる」

「俺たちもまだまだ戦えるぜ、桃太郞!」

「ポチさん! マサルさん!」


 その二名の名はさっき聞いている。確か桃太郎の育ての親であり、サルの方はこの反重力エンジンを実用化した天才だ。全体的に情報量が多すぎる。


「よし、このまま内部に侵入する!」

『僕らも行こう、少年』

「あ、ああ……!」


 陰から飛び出し、僕も桃太郞とイヌとサルとキジの後を追う。

 通り過ぎる時に起き上がりそうな敵がいたので、何かしらは貢献しておこうとその股間に蹴りを入れておいた。

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