7/8 「反重力力学少女と女装少年の詩-16」

 ~あらすじ~

 絶賛片思い中の萌木さんと、二日間同じ部屋に泊まることになってしまった。


 * * *


 まずい、色々とまずい。

 確かに、願ってもない展開といえばそうなのかもしれない。気持ちを伝えるならこれ以上ないチャンスだ。しかし、それ以前に萌木さんがどう思うかが問題だ。


『杉山さんは、できるだけ離れて寝てくれませんか……部屋の隅とか』

『もしかして興奮してるんですか……変態』

『こんなことなら、来るんじゃなかったです』


 脳内の萌木さんが、冷ややかな目線で蔑んでくる。


「いやあああ……!」

「す、杉山さん!?」


 ショックに耐えきれず、僕は本人の横で崩れ落ちた。


『大丈夫だ少年、萌木君はそこまで辛辣じゃないはずだよ。僕としてはその展開もたまらんけど』

(お前には嫌いな展開はないのか!)

『だから、かわいそうなのでは抜けないっていってるじゃないか。竿役がかわいそうなのは別にいいけど』

(人でなし!)

『うん、ゾウだよ』


 ゾウだった。


「杉山さん大丈夫ですか? 何か具合でも」

「あっごめん、そういうんじゃないんだそういうんじゃ……!」

「もしかして……一緒の部屋というのは嫌でしょうか?」


 困り眉付きの反則的な視線が僕を串刺しにする。


「ゼンゼン、ソンナコトナイヨ……」

「むー……」


 追撃のように 萌木さんの ジト目頬膨らませ!


「ひぇゅ(息を引く変な音)」

『これは、インドゾウもイチコロだね……』


 効果はばつぐんだった。


「嫌、じゃないよ……萌木さんこそ、僕なんかと同じ部屋で嫌じゃないの……?」


 もじもじしながら、逆に萌木さんに聞き返す。なんだか僕の方が貞操を気にしているみたいになってきた。


「私ですか? 私なら、人のいる空間で寝るのは慣れてるので大丈夫です」

「いやいやいや、女子寮とはまた違う話じゃないか絶対!? ベッド一つだよ!?」

「見たところ、十分に二人で寝れる広さはありそうですけど?」


 ふつーに寝る気だこの人ぉーーーー!


「でも確かに、殿方の横で寝るのは少し落ち着かないかもしれませんね……」

『じゃあ、少年が女装して寝ればいいんじゃない?』

「何言ってんだお前は?」

「なるほど、それですわ!」

「萌木さん!?」


 味方ゼロだった。


「ああもう……分かったよ。覚悟を決めるよ」


 邪な気持ちを抱かないことを胸に誓い、僕は観念する。

 ならば、そのためにも今の段階で欲を吐き出す必要があるだろう……。


「杉山さん? どちらへ?」

「ちょっとトイレ……」

「トイレならシャワールームにもありますよ?」


 だってそれガラス張り丸見えじゃん……!


「出たところにもあったはずだから、そっちを使うよ」


 逃げ出すようにドアノブに手を掛けて出ようとする。

 しかしどんなに力を込めても、ドアノブが回らなかった。


「あれ、どうして」

『すまない、少年』


 焦る僕に、ゾウが耳元で囁きかけてくる。


『僕としても作者としても、このチャンスをスルーわけにはいかないんだ。このシリーズは、どうにも下ネタ成分がウケているらしいからね』

「何の話だ……!?」

『少しばかり、部屋に妖精的な細工をさせてもらった。今から鬼ヶ島に到着するまでの二日間、君達二人はある行為に及ばない限りこの部屋から外に出ることができない』

「まさか貴様……!」

『ふふ、その通りさ……今からここは、“セ○クスしなきゃ出られない部屋”だ』


 天国と地獄を煮詰めた鍋の蓋は、かくして開かれる。

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