6/28 「反重力力学少女と女装少年の詩-6」
翌朝目覚めると、ゾウは僕のち○こに移っていた。
『うん、やはり
しかし、やはり妙案は浮かばないらしい。
ならばどうするべきかと悩む僕達。
「何かこう……本に書いてたりとかしないの?」
そう言うのはイロハだ。
「誰も生きて帰ってきてないんだ。方法がどうこうとか、そんな本が存在するわけないじゃないか……ん? 本が、存在しない……」
* * *
「じゃあ、ここにその本があるわけ?」
「あぁ、間違いないと思うよ」
かくして僕達がやってきたのは、不在堂書店(x=3, y=7i)西口店である。
この世に存在しない本のみを専門として扱うここなら、きっと鬼ヶ島に向かうための方法を記した書籍が手に入るに違いないと僕は考えたのだ。
「すごい、本がいっぱい……」
店の入り口の時点で、イロハは見たこともない本の量に目を輝かせる。
彼女は我が家でシャワーを浴び、僕の女装用の服に着替えていた。
白のノースリーブのブラウスに、黒いレース生地のロングスカート。人形のように整った顔立ちに長い銀髪を風に揺らす彼女がそれらを着ると、やはり素材の差は大きいんだなと肩を落としたくなる。
僕は、今日のところは普通に男の格好だ。なにせこの店には――。
「おう、杉山じゃないか。何探しに来たんだ?」
聞き慣れた声に目をやると、そこには緑色のエプロンを着たクラスメイトがいた。
「高橋、今日もバイトか」
男子寮に住む高橋もまた、萌木さんと同様にクラスメイトだ。その高橋は最近、こうしてバイトに費やす時間を増やしているようだった。きっと何か欲しいものでもあるのだろう。
「まぁ、バイト入れてりゃ寮にいなくて済むからな……」
高橋は目をそらす。どうやら寮にいたくないワケがあるらしいが、そっとしておくことにした。
「そんで、何だその子は。外人さんか?」
高橋がイロハに目を向ける。そりゃいきなりクラスメイトが銀髪の女の子を連れてきたら、気にもなるだろう。
「えーとその、まぁ遠い親戚みたいな感じかな」
「ふーん……彼女とかではなく?」
「は?」
僕が言葉を返すよりも早く、イロハが高橋を睨みつける。
「ひっ」
「ほら、本当にそういうんじゃないから」
「ま、まぁそっか、お前萌木さん一筋だもんな」
「ばっ、何でそのことを――!」
「見てりゃ分かるわ……そんで? お探しの本はなんだい?」
「ああ、それなんだが……」
鬼ヶ島に向かうための方法を記した本がないかという旨を、僕は高橋に伝える。
「なるほど、そりゃ確かにウチだな」
高橋はレジカウンターに戻って、端末を操作して在庫を確認する。
しかし高橋は、画面を見て眉を寄せた。
「んん? ちょっと待っててくれ。店長すみませーん」
高橋が声をかける。
隣接するバーカウンターでカクテルを作っていたダンディな店長が、綺麗な水色のカクテルをグラスに注いでからやってきた。
「どうした、高橋君」
「ちょっと鬼ヶ島にいくための本探してみてたんですけど……」
「なるほど、貸したまえ」
店長が変わって端末を操作する。
四、五分ほどそうして店長と高橋が画面とにらめっこをしていた。
「なるほど……こりゃ驚いたな」
店長がサングラスを直す。
「あの、つまりどういうことなんでしょう?」
「すまないが……君たちの期待には応えられない」
「というと?」
「鬼ヶ島に向かう方法を記した書は、この店には置いてないということだよ」
「っ、それってまさか!」
「ああ、君の今考えた通りだ」
あまねく存在しない本を取りそろえた不在堂書店。
そこに本が存在しないことが意味するのは、ただ一つ。
「君の探している本は、この世に実在している」
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