5/31 「棒オンライン-6」
月光が空気を裂く。
刺々しい陽光が
大地はうねり、水が駆け巡る。
後に動画サイトで配信されたアーカイブ映像に、世界中の〈ボイン〉プレイヤーは驚き、猛り、そして笑うことになる。
『おいおい、これ本当に俺たちがいつもやってるゲームかい?』
『なんだ、僕たちのはただの木の棒だったらしい』
過去の世界大会すらも凌駕する、〈ボイン〉史上最も白熱した一戦。
最初に倒れたのはBLUE ROSEの扱うくノ一だった。NagiがBLUE ROSEの本体とタイマンを繰り広げている間に、有利対面のJが辛勝を勝ち取っていた。
しかし、ある意味ではそこからがこの戦いの始まりだったとも言えるだろう。二人同時に操っていたBLUE ROSEの操作リソースが本体に集約されたその瞬間、Jはその猛攻に瞬く間に倒されてしまったからだ。
そして闘技場に残された、NagiとBLUE ROSE。
プレイヤー対の間で「第七.五回世界大会決勝」と語り継がれることになるその死闘は、互いの残された加護を全てぶつけた一撃によって決した。
Nagiの「
BLUE ROSEの「エヴァー・ローズ・ガーデン」。
目映い月光と咲き乱れる薔薇の花が闘技場を覆った後、最後に立っていたのは――。
* * *
「――お見事だわ」
画面に表示された「YOU LOSE」に、BLUE ROSEはボイチャでマイクの向こうにいるのであろう少女に賛辞を送った。
『気まぐれで速度上げてなきゃ、アンタの勝ちだったけどな』
それに対し、集中力の切れた草薙は疲れ切った声で答える。
「うふふ、運も結果には含まれるものよ。あーあ、私もまだまだ強くならなきゃいけなくなってしまったわ」
『2キャラ同時プレイしといて何言ってんだか……別に、私はアンタが世界で一番強いことに異論はねぇよ』
「あら、デレるなんて珍しいわね?」
『うるせぇ! はー……駄目だ。全部気力使い果たしたから今日はもうやめだ』
「そう? お疲れ様。私はあと三戦くらいやろうかしら」
『ったく、相変わらずバケモンだな……ああいや、バケモンだけど』
「あら、失礼しちゃうわね。そんな態度じゃ世界最強には程遠いわよ?」
『別に――私には人類最強にさえなれれば十分だよ。じゃあな』
ボイスチャットが切断される。
「もう……向上心があるんだかないんだか」
BLUE ROSEは握っていたコントローラーをテーブルに置き、うんと四本の触手を上に伸ばした。それが合図となるように、暗がりの部屋のドアが開けられる。入ってきたのは、スーツを着こなしサングラスをかけた女性だった。
「ロゼさん、今よろしいでしょうか。ロゼさんの母星から通信が入っておりまして……」
「あらホント? ちょうど今キリがいいわ」
椅子の上から、BLUE ROSE――ロゼがそのタコのような軟体を降ろす。
アメリカ・ネバダ州、エリア51地下施設。
そこに設けられた自室を離れ、ロゼは粘液を引きながら通信施設へと向かった。
いい感じの木の棒で戦う〈棒 オンライン〉。
そのトッププレイヤーである〈BLUE ROSE〉の正体は、惑星オクトパより使者としてやってきたタコ型宇宙人だったりする。
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