第5話 明日見愛依(あすみめい)は探りたい!

 カタカタッ……カタカタッ……


 となりで原稿を執筆しているのは、プロ作家のあさの玲二先生。


 私、明日見愛依(あすみめい)が、出版社のとある賞で入賞したのがそもそものきっかけだった。


 その副賞としてプロ作家のあさの玲二先生のところに、小説の修行として出入りするようになってから、一週間ぐらいが経過した。


(うーん、聞いちゃおうかなぁ……でも先生仕事してるし気になるなぁ……)


「どうしたの? さっきから」

「ひゃっ!? え、なんでもないですよ?」

「うそ。さっきからチラチラこっち見てたじゃん。なんか気になるの?」

「あー、その」


(どうしよ! 全部バレてたー! 私のばかばかばかぁー!)


「二筆先生とは、やっぱり仲がいいんですか?」


 二筆流(にふでながれ)先生。

 さっきまでここにいた女性のプロ作家さんだ。


 速筆と独特な作風で有名で、あさの先生の同期だ。

 私がいつもどおりにご飯を作りに来た時、二筆先生が急にやってきた。


 編集部に原稿を渡しに来たついでに寄った、と言っていたけど、本当のところはどうだろう?


「どうして?」

「あ、えっと。二筆先生ってあさの先生と同期ですし、仲良さそうだし。……それに美人だし……その、付き合ってたりとかするん……ですか?」

「ええええ!? 俺と二筆が?」

「は、はい」

「ないない!」

「そ、そうなんですか? かなりフランクにお話されてたみたいなので……」


 私の反応にあわてて手を振るあさの先生。


「二筆はただの同期だよ。授賞式で席が近くてちょっと絡まれて。それから腐れ縁みたいな感じで……」

「そ、そうだったんですか。そういえば栃木出身って言ってましたね」

「そうそう。あいつずっと栃木から編集に通ってたんだよな」

「新幹線で!?」

「うん。さっき来た時『引っ越した』って言った時はびっくりしたけどね」

「それってやっぱり……」


(やっぱり二筆先生はあさの先生のことが!? じゃないとあえて引っ越しなんかしないと思うし。しかもあさの先生の仕事場……このとなりのアパートに引っ越してきたんて、どう考えてもあさの先生との距離を!)


「どうしたの?」

「いえ、あさの先生を頼って上京してきたのかなーって」


(乙女心としては、絶対好きでもない人の家のそばに引っ越すなんて考えられないんだけど、でも先生はさっき否定してるしぃぃ……うううぅ……)


「まぁでもそういうところはあるかもな?」

「やっぱりですか!?」

「あいつの両親忙しいらしくてさ。飯食うにも外食が多かったりするらしいんだよな」

「俺はこの仕事場で書きはじめてから結構たつから一通り家事はできるし。……ってのを前に電話で話したことはあったな」

「電話? 電話したんですか?」

「うん。あいつスマホじゃないから電話かメールしか連絡手段ないし」

「……珍しいですね」

「あいつの格好みただろ? 浴衣に雪駄に番傘だぜ? スマホ持ってるイメージあるか?」

「言われてみれば」

「あいつキーボードもホームポジションで打てないし」

「…………なのにあんなに小説量産してるんですか!?」


 驚いた。

 二筆流先生といえば、速筆で有名。

 一時期は月間二筆って呼ばれるぐらい、本が出ていた。


 今はペースは落ちたとは言え、二ヶ月に一回は新作を出している。


 二筆先生は、あさの先生と同じ稲妻文庫から本を出しているけど、そこはライトノベルと、一般文芸と分かれていて、二筆先生はどっちかっていうと一般文芸で書いている。


 一巻で完結する話が多いから、そのたび物語を考えないといけないはず。

 本当にすごい人だ。


 そんな人がキーボードがホームポジションじゃないなんて、一体どうなってるんだろう。


 気づけば私は二筆先生とあさの先生もだけど、二筆先生に興味が湧いてきた。


「ほんとあいつ凄いよな。尊敬するよ。小説以外はダメダメなのにな。ごめんな、さっきも俺のためにご飯作ってくれたのに、あいつも食べちまって」

「いえ、人数は多いほうが楽しいですし。それに二筆先生、おもしろい人ですし」


(確かにあさの先生との関係は気になるけど……でも、二筆先生もあさの先生を頼っているみたいだし、あんまりガツガツ聞かないほうが良い気がしてきたな。どのみち私の方が後からだしな)

(それより今はちゃんと楽しんでもらえる小説を書けるようにならないと)


「たしかにな。あいつがいると楽しいし。それに俺、愛依ちゃんが来るまでは本当に一人だったから。実家は同じ都内だけど、小説に集中したくて、実家を出て学校が終わってからここにこもることも多くなった。だから今、愛依ちゃんが来てくれるだけど俺はすっごく楽しいよ」


「本当ですか?」

「本当だよ。俺も助かってるし。……逆に愛依ちゃんはあまり俺のまわりに気を使わないで小説に集中してね? せっかくのチャンスなんだから」


「大丈夫です。私、すきでやってますから。掃除も洗濯も、お料理も。もちろん小説も」

「だったらいいんだ。じゃ。俺仕事に戻るね」


 そういうとあさの先生はまたノートパソコンに視線を戻す。


(あーあ。私なに考えてるんだろう。小説の勉強をしにきてるのに、二筆先生に嫉妬するようなこと……私も頑張らなきゃ)


 あさの先生と二筆先生が食べたごはんを片付けると、私もノートパソコンとのにらめっこを再開した。

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俺と同期の天才美人ラノベ作家が〆切りを全然守らずに遊び歩いているのに俺より人気があるのはおかしいと思うんだ あお @Thanatos_ao

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