第92話 インハイ中の様子後編


「2日目となるとやっぱ強いところしか残ってないね〜」


「流石にな……監督も今日からはスタメン固定で行くって言ってたしな」


 インハイまで2日目に突入し、陽輝と悠真はベスト8決めをしているチームを見ながら話していた。

 すでに残っているチームは16チームで今日でベスト4まで決まる。陽輝達の男バレは目標が最終日まで生き残るというものなので、今日を勝ち切ることができれば無事に目標は達成される。



「お前ら〜試合見るのはいいけど、そろそろアップしろよ〜」


「「了解です」」


 キャプテンから指示を受けて2人はアップをするために観客席から移動する。その背中を他のチームは見つめていた。


 〜〜〜


「女バレ、どこまで行くと思う?陽輝」


「良くてベスト8、悪くて今日の初戦負け」


 軽く走りながら2人は話す。キャプテンは身体を動かしさえしていれば特に文句は言わない。というか言えない。キャプテンも分かっているのだ、2人の重要性を。だから口は出したくても出せない。


「そうだよね……トーナメント表見たけど4つ決めで去年の優勝校がいるからね」


「しかも去年のメンバーの大半が残っているからな。どれだけ調子が良くても厳しいだろうな」


 女バレの話をしつつ2人はしっかり身体を動かしていく。走った後は身体をほぐし、時にはお互いを利用しながら身体を動かしていく。


「女バレのことはもういい。俺らはやるべきことをやるぞ」


「そうだね、勝たないとね、先輩は一応引退するって言ってるからね」


 そういった2人の顔つきは先ほどとは異なり、真剣な表情に変わっていた。それを見た小珀が「うわぁ……カッコイイっ!」と頬を赤く染めながらぼやいていた。



 〜〜〜


「頑張れー!陽輝ー!悠真くんー!」

 翠を筆頭に応援をしている女バレと保護者達。

 3日目を迎え、女バレは陽輝の予想通りに優勝候補と準々決勝であたり、善戦虚しくもストレートで負けてしまった。

 一方男バレは昨日の2戦をなんとか勝ち抜いて、最終日まで駒を進めていた。


 女子の応援があるということで男バレのメンバーの大半は喜んでいた。あちらこちらから歓喜の声が聞こえている。試合前というのにはしゃいでいるスタメンも見受けられ、キャプテンが怒鳴っていたりする。


「あいつらバカだろ……たかが女子の応援でここまではしゃげるの才能だろ(笑)」


「まぁ、みんな独りぼっちだからね……ここで活躍したら彼女になりたいって子もいそうだけどねー」


 悠真の発言にハッと気づいたチームメイトは先ほどまではしゃいでいた子供のような姿を消し、真剣な表情でアップを開始した。


「ははっ、あいつらチョロすぎだろ……」


「これくらいなら扱いやすくて楽だね、僕らもそろそろパスでも始めようか」


「そうだな。相手さんも始めてるしするか」


 〜〜〜



「「「あーと一点!あと一点!」」」


 バンバンバン!とメガホンなどで音を出しながら応援しているのを背に悠真はサーブの準備をしていた。

 準決勝第3セット目。点差は22-24、外せば負けるという場面だ。


「気楽にな、悠真。ミスしたところで誰も責めやしないさ」


「そ、そ、そうだぞ黒木。大丈夫だ、思いっきり行けば平気だぞっ?!」


 陽輝と服部の声に笑顔を一瞬浮かべる悠真。いつものサーバの定位置についてコートを見るとチームメイトは半分ほどスタメンはベンチにいて、3年生はいない。キャプテンは2セット目に足を捻って途中交代、もう1人の3年生はリベロと変わっていない。


 それに対して相手チームはずっと同じメンバー。疲労しているのもわかるがそれ以上に疲れているのがチームメイト。


 入れるだけでは負け、ミスしても負け。


「力が入りそうな場面だよねぇ……」


 ボソッと呟くが応援にかき消され誰も聞こえない。



 笛の音と同時に助走を始め、普段よりワンテンポ早くして打つ。

 再び笛の音が鳴り23-24。応援席が盛り上がる。


「……もう一本。お前ならやれるぞ悠真」


「そうだね、次も決めるさ」


 宣言通り2本目もしっかり決め、同点。相手監督はたまらずタイムを取る。


「お前ら、正念場も正念場だ。頼む……後2点を先に取ってくれ……!」


 キャプテンからの頼みにはい!と返事をするチームメイト。悠真だけは別に座って目を瞑っていた。

 集中を切らさないためのルーティーンだ。1人だけ纏っている空気が異なるのが目に見えてわかるぐらい集中している。


 そんな空気を小珀が切り裂く。


「ゆうくん、水分は取ってください。譲れません」


「あはは……そうだね、ありがとう」




 笛の音が鳴り、タイムが終わる。


「いってくるよ、小珀」


「2本また決めてくださいね。ゆうくんはできる子って知ってますからね」


「かっこいい姿だけ見ててくれればいいよ。だから勝ってくるね」


 そういって1人ボールを受け取りサーブを打ちにいく悠真の背を小珀は見つめていた。


 笛の音が鳴り————








「お疲れ様!よく戦ったよぉー!準優勝でも快挙だよぉー!」


「わかったから抱きつくなって、汗でユニフォームがびちゃびちゃだし翠の涙でもびっちょになったじゃねぇか?!」


「お疲れ様でしたゆうくん。準決勝はとってもカッコよかったですよ。決勝は惜しかったですが……」


「ペース配分間違えたね……体力不足を認識したよ」


 ————陽輝達男バレは準優勝。

 あの後悠真は3本目をしっかり決め、4本目は相手を崩し、チャンスボールから陽輝とのコンビで決め切って無事に勝った。


 しかしそこで体力をかなり持ってかれ、決勝の2セット目で悠真は脚を攣って離脱。他のスタメンも疲労によって満足な動きはできず、惜しくも優勝は逃した。


「ほら、男バレにくっついてる人は離れろー、せめて着替えさせてやれー。着替えたら外で軽く集合して解散するぞ。女バレも一緒に集まるらしいから、先に行って待っててくれ」


『はぁーい』と顧問からの指示で返事をして女バレはぞろぞろと会場の外へ荷物を持って出ていく。


「ほら、言われてんぞ。またあとでな」


「小珀も離れてね。野郎共の着替えなんか見ちゃいけないからね」


「「はーい……」」



 こうして、インハイは終わりを迎えた。












「さぁ、ホテルへ行こう!早く早く!」


「俺は疲れてんだ……もう少しゆっくり……引っ張るな!」


「うるさーい!早く行ってイチャイチャするんだから!だから気張って!ホテル着いたらマッサージでもして癒してあげるから走れー!」


 翠に振り回される陽輝は心配になった。

 旅行は計画通りにいかなそうだ……と。








 読んでいただきありがとうございます。

 次から旅行に入ります。

 荷物は悠真と小珀にまとめて渡してあり、旅行用の荷物を今は持ってます。

 試合用の荷物と別で2人は持ってきてたわけになります、普通ならアウトですね笑

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る