第90話 インハイ前日
あの日以来陽輝と翠は一緒にいる時間は減った。インハイまでお互い部活で忙しくなったからだ。始まる時間も終わる時間もあまり被らず、無理して時間を作って会うぐらいならお互い大会が終わるまでは我慢しようと翠から言われ、陽輝は納得し途中からは全く会っていない。
そのおかげか部活の方にいい影響があったのか女バレの方ではすごく強くなったと言われている。インハイ前の練習試合でも大学生相手に五分五分の勝負ができていると聞いた。
『翠ちゃんの気迫が凄いんだけど?!』と男バレの方に話が流れてきた時には一時的に別れたか?と噂もされたが陽輝は気にすることなく過ごしていた。
「翠ちゃん、なんかすごいですけど何かありました?喧嘩したりとか……」
「いーや、なんもないよ。俺らはインハイ終わるまでは会わないでおこうって決めたから本当に何もないな」
「多分会いたい気持ちを部活の気力にしてるんじゃないかな?たまに『デート……!お泊まり……!』って呟いてる姿目撃されてるから」
「デートはする約束したけどお泊まりまではしてないんだが……」
そんなこんなで時間は過ぎていき、気がつけば8月中旬。インハイの前日を迎えていた。
「よっ、久しぶりだな。会いたかったぞ」
「うちだって会いたかった!……明日からだね」
インハイの舞台である京都に前乗りをしている2人は空き時間を使って会っていた。2人の前乗りしている宿泊施設は意外と近く、時間もあったため会うことができていた。
翠の止まっている旅館の近くにある広場で2人は会っていた。
「そうだな、明日から始まるな。そっちの調子どうだ?噂だとお前が暴れてるって聞いてるぞ」
「暴れてなんかないからね?!……県大会はうちのせいで負けたから頑張ってるだけ、あとは、陽輝に会えないからそのストレスをボールにぶつけてただけ〜」
「……そうか、今まではなんだかんだ会ってたな」
「んね、会わなくなって初めて気づくんだよね。とっても寂しかったよ?」
そういって両手を広げる翠。何を求めているのか陽輝は分かっているが、あえて焦らしていた。両手をあげようとして、おろして悩む姿を見せていた。
「…………ねぇ!いつまでうちはこうしてればいいの?!疲れるんだけど?!」
「ん?あぁ、大会これからだしどうしようかなと考えてたわ」
「いいじゃん別に!陽輝は寂しくなかったの……?うちはこんなにも寂しかったのになぁ〜?」
「思ったより寂しくなかったのかもしれないな、忙しくて充実した日々を送ってたからかもな?」
「…………うちだけなの??ねぇ……『冗談だよ、寂しかったわ。ほら、こっちこいよ』……飛び込んでやるからね!」
途中で翠があまりにも悲しそうな顔をするのを見て流石にからかいすぎたと思い、陽輝は翠のように両腕を広げた。
そこに翠は本当に飛び込んだ。あえて距離をとって助走までとって陽輝の胸に飛び込んだ。
「おい!危ねぇな!大会前だぞ?怪我でもしたらどうするんだよ」
「うへへ、陽輝は受け止めてくれるって知ってるから飛び込んだんだよ〜。……もうちょっと抱きしめて?そしたら満足するからさ」
「はいはいわかりましたよお嬢さん……満足したら送っていくからな」
数分ほどそのまま抱き合っていた2人。携帯の着信音が鳴り、2人は抱き合うのをやめた。音の出所は翠の携帯だった。
「先輩からだ……はい!なんでしょうか?……わかりました。すぐに戻ります。はい、失礼します……ごめんね陽輝、急遽ミーティングするから帰らないといけなくなっちゃった」
「送っていくぞ、ほら?」
手を差し出す陽輝。その目を見て笑顔で翠は手を握る。手の繋ぎ方は指を絡ませて。
「じゃあ大会終わった後にな、応援は行けねぇから今しておくわ。……気負わず、頑張れ。俺の自慢の彼女らしく、戦ってこい」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん、……そうだね、県大会みたいに潰れたりはしないよ。もう大丈夫。頑張るから陽輝も……」
場所は翠たち女バレが泊まっている旅館前。大会が始まったら多分会えなくなるため陽輝は先に応援していた。翠も同じように応援するつもりだったが途中で黙る翠。何か悩んでいるようにも見える。
「どうした?もう戻らないといけないだろ?何か言いたいことあるなら早く言わないと怒られるんじゃないのか?」
「ちょっと屈んで?」
「ん?あぁ、いいけど……」
屈んでもらった陽輝のおでこに軽く口付けをする翠。そして距離をとって一言。
「うちからの勝利のおまじない〜!」
耳を真っ赤にして旅館内へと逃げるように入っていく翠を陽輝は眺めていた。
「照れるくらいなら無理してしなくてもいいんだがな……頑張るか」
こうしてインハイ前の夜を2人は過ごした。
読んでいただきありがとうございます。
ちょっとだけ大会の様子挟んですぐに京都デートの方に行きます。
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