第89話恋人らしい……とは?
「恋人らしいこと……ってなんだ?具体的に何がしたい?」
翠から言われたその言葉に陽輝は尋ね返した。というのも今2人は彼氏彼女の関係であるため、恋人なのである。それなのにらしいことをしたいと言われて陽輝はわからなかった。恋人である自分達にとってらしいこととは何かと。
「そうだなぁ……とりあえずデートに行きたいかな?なかなか時間作れないけれど2人でちょっと遠くまで行ったり、お弁当を作ってあげたり……」
「お前料理ってできなかった気が……『黙って?らしいことって言ったよね??』……お、おう。そうだな、例えばの話だな」
料理の話は無理だろ……と思う陽輝だが、その前のデータについては思うところがあった。なるべく一緒にいる時間を作ってはいるがそれでも2人は世間一般の恋人達とは若干異なるだろう。
2人とも部活に所属しておりお互い中心メンバー。容易に部活を休んで遊びに行くことなどできず、これからさらに忙しくなっていく。
2人とも馬鹿ならテスト期間に遊んだりもできるが陽輝は成績も優秀。そんな陽輝の足を引っ張るわけにはいかないため翠はテスト期間に遊びになど誘えない。
そうすると恋人らしく過ごしている時間というものはものすごく少ないようにも思う。
もちろん陽輝は一緒に居たいと思っているし翠と思う。ただお互いの立場的になかなかデートなど誘うことが難しかったりもしていた。
「デートか……付き合ってからそれっぽいことは確かにしてないな」
「付き合う前の方がしてたっておかしい話だよね?だからしたいんだよね、デート」
「なかなか時間取れないからな……」
「そうなんだよね……」
少しの間無言で走る2人。ペースも最初より下がっているような気もする。
数分が経ち、陽輝の方に名案が思いついた。
「あ、じゃあするか?夏休みになるが。インハイ終わった後に京都でも観光するか?こっちは最終日の後から3日間オフがあるからその時間使えば観光できると思うぞ?」
「……その考えはなかったなぁ、でも悪くない!うちらも同じ期間オフだから休みだよ!京都旅行だー!」
「いきなりペース上げるなって、危ないぞ?」
デートできることにテンションが上がった翠はペースを上げていく。ついていくことは簡単だが、目の前を走る翠からとても嬉しそうな雰囲気が出ており、陽輝は少し後ろから眺めていた。
「詳しい予定は、おいおい立てていくか。許可が降りないことはないと思うけど一応颯太さん達に許可は取っておいてくれよな?」
「りょーかい!今から楽しみだね?」
街灯の下で止まり、満面の笑みを浮かべてこちらを見る翠はとても綺麗だった。
「……そうだな、楽しみだ」
自らの頬が上がっていることに陽輝は気づいてはいなかった。
「あ、そうだ……あのね?」
「ん?なんだ?」
陽輝の耳元まできてボソッと翠はつぶやいた。
「うちはね……もっと君に触れたり触れられたりしたいんだ、だから旅行の時……期待してるね?」
顔を真っ赤にして言った翠は逃げるように走り始めた。先に行く翠に『ほらー!止まってないで走るよー!』と言われても足が動かなかった。それほどに衝撃だった。
「……くっそ、今のは反則だろ…………すぐ追いついてやるから先に行っててくれ!」
今までにないぐらい心臓の音がうるさい。落ち着くまで陽輝は少し時間が必要だった。
「じゃあ、またね。今日はありがとね」
「おう、またな」
あれから30分ほどで翠の家に着き、陽輝は家まで走る。翠の顔は以前と赤かったが何も言わないでおいた。
きっと自分も未だに赤いのだろうとわかっていたから。
「……楽しみだな。今年の夏は」
去年と大きく異なる夏にボソッと呟いた陽輝の声は車の後にかき消された。
読んでいただきありがとうございます。
これから徐々に甘々にしていこうと思います。
書きたいように書けそうな気がしてきたのでなんとか頑張っていきたいと思います。
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