第49話 体育祭⑤


 午後最初の競技は、クラス選抜リレーだ。各クラス四名(男女別々)で、400メートル走る。午後の競技は見応えがある種目が多い。もちろんこの選抜リレーもレベルが高いはずなので熱狂するだろう。配点も高いし。


 一年生の部から徐々に行うため、俺の出番は最初の方である。悠真を含めたメンバーと最終確認をしているうちに、出番はやってきた。


「一年生、第二部の開始です!」


 そうアナウンスが流れ、審判の「位置について!」の声で一瞬静寂が訪れる。そしてパン!といい音が鳴り響いて俺たちが参加する選抜リレーは開始された。


 一番手を担っているやつは、なんとか二位で二番手にバトンを渡し、二番手のやつは他のクラスに抜かされ、四位で悠真にバトンを渡した。


「すまん、悠真。抜かされた!」


「これくらいなら大丈夫だよ、ナイスラン」


 悠真は後半に加速するタイプなので、バトンを渡された直後に抜かされていたが、すぐに抜き返して挽回する。俺にバトンが渡るまでに二人抜いており、一位と少し差はあるがなんとかなりそうな状況で俺にバトンが回ってきた。


「陽輝、後は任せたよ?」


「あぁ、任された」


 クラスメイト達が必死に応援しているのが走っていてわかる。それはどのクラスも同じだが、一際熱心だと思った。


「行けるぞ!抜かせぇ!」


「頑張ってー!紅島くん!」


 50メートルの時点で、俺と一位の差はほんの少しになっていた。しかし、なかなか追いつかない。そしてそのまま、最後の直線へと差し掛かった。


 さらに応援が激しくなる。そして、翠の声も聞こえる。


「負けたら許さないからねー!そんなやつ、抜かしちゃえー!」


 それを聞いて、ちょっと苛ついた。何故普通に応援してくれないのか、と。きっと期待しているからだろうが、それでも普通に頑張ってー!と言って欲しかった。


 まぁ別にそんなことはいいんだけどな……と考えながら最後の直線で抜き返して、一番盛り上がる形で一位をとった。



「選抜リレー第二部!白熱の接戦を制したのは二組だ!」


 アナウンスが流れ、わぁぁぁぁぁ!っと盛り上がる。走り終えた俺は、メンバーもハイタッチをして喜んだ。と、先程抜かした二位のアンカーがやってきてこう言った。


「……もしかして、狙って、僅差で抜かしたのか?」


 何を言ってんだ、と思ったが彼は息が上がっているのに俺は平気な顔をして話しているのだからそう思っても仕方がないだろう。


 ただ俺は顔に出してないだけで内心結構きつい。ただまぁ……本気で走ったかどうかと言われたら、ノー、と答える。


「狙ってはいなかったが、本気で走ってもいないな。この後も他の競技に駆り出されるからな」


「……そうか。お前は化け物だな」


 そう言い残して彼は立ち去った。……化け物って酷くないか?


「陽輝がやべぇのはもう慣れたな」


「それな、午前あれだけやってんのに余裕がありすぎるもんな」


「陽輝はハイスペックなのに加えて堅実だからね。他の競技やらせてもそれなりの結果は出せちゃうからね」


「「まじか……化け物だな!」」


「おい、俺はそんな凄くねぇから。とりあえず、戻って応援しようぜ」


 ……俺はやれることをやっただけなんだがな。





「お疲れ様ー!みんな早かったね!」


「一位おめでとうー!」


 戻ってきた俺たちをクラスメイトは祝福してくれた。というか、みんな上位に食い込むので祝福の言葉しか聞いてない。


「陽輝……かっこいいじゃねぇか……顔も良くて、運動もできて羨ましいぞ!」


「それだけかっこよければそりゃ谷口さんも惹かれるわ」


「俺も彼女欲しい……」


「「「ははは……」」」


 一部の男子は先ほどからこのような状態なのらしい。妬み始めたと思ったら、尊敬して、落ち込む。これの繰り返しをずっとしているらしい。


「どうやったら彼女ができますか!陽輝くん!」


 一人が聞いてきたことを筆頭に、数名の男子が俺の元によってきた。


「近い近い!暑いんだよお前ら!離れろ!」


「「「教えたくれるまで離れません!!」」」


「あのなぁ……そういうのは悠真に聞いて来いよ。あいつは昔からモテてたし、彼女もいるんだからあいつの方がいいぞ?」


「「「なんだと?!すぐに聞いてくる!」」」


 ごめん悠真。暑苦しいのは嫌だったんだ。

 心の中で謝り、一人椅子に座る。と、隣に翠がやって来た。


 こちらをチラッと見ては、すぐに顔を背ける。そしてまたチラッと見ては、背く。何がしたいんだこいつ……。


「なぁ、翠。どうかしたか?」


「ど、どうもしないよ?」


「じゃあなんでそんなに見てくるのに俺が見たら顔を背けるんだよ」


「だ、だって……恥ずかしくて顔を見られないし……」


「うるさい、こっちを見ろ」


 よくわからない方向を見ながら話して来たので、頬を摘んでこちらを任せる。そしてそのまま伸ばす。


「い、いひゃいよ?ひゃにふるの?」


「遊んでんだよ。走って疲れたからお前で遊んでんの」


 伸ばすだけでなく、回したり、押したり、色々する。思ったより楽しいな……。


「もうしょろしょろひゃめよ?じゃなひと、ひゃりかえすよ?」


「何て喋ってるか分からないな」


「もう!だったら……」


 されるがままだった翠は、俺の片腕を掴んで抱きしめた。しかもかなり強く。


「ちょ、何してんだよ!今すぐそれをやめろ!」


「嫌だねー!これを他の人にしっかり見られたらどうなるかな?」


 ニヤニヤして俺をからかう翠。しかし顔は真っ赤だ。恥ずかしいのだろう。


「恥ずかしいならやめてくれないか?じゃないとあいつらが見てきた時にどうなるか———」


「おーい陽輝。飲み物でも買いに……お邪魔したね。翠さんとお幸せにー!」


まさかフラグを自ら立てて回収するとは。


「ちょ、大声でやめろ!」


 一人のクラスメイトが大声で言うものだから、何人かこちらを見てくる。そして口を揃えて言った。


「「「………翠さん、そいつから離れてください。殺るので」」」


「だめだよ?うちのだからね」


 そう言い返した翠は、普段とは違った妖艶な笑みを浮かべていた。隣にいた俺も、息を飲んで見惚れてしまった。


「「「うちの……ぐはぁ!」」」


 もちろんそんな翠を見れば馬鹿達クラスメイトには耐えられない。数名休憩室に運ばれていった。


「……翠ちゃんってそんな表情もできたんですね。さっきのは凄かったです!」


「陽輝がここには心あらずって感じで見惚れてたからねー」


 いつの間にか悠真と佐藤さんがやっていた。となれば、勿論見られていたわけで……


「……もう無理だよぉ……」


 翠の限界が来た。プシュー!と効果音が付きそうなほどに顔をさらに赤くして、俺の腕を離して顔を隠した。



 その後、復活するのに数分かかり、その間俺は二人にいじられた。復活した翠は一言言って自分の競技に出場しに行った。


「悠真と小珀だって家じゃ凄いくせに……」


 この一言で、悠真は佐藤さんに詰め寄り、佐藤さんはひたすら謝っていた。……悠真は慣れているのか、尊敬の念を込めて微笑ましい光景を見ていたら悠真に怒られた。


 今度何か言われたらからかってやろっと。















 読んでいただきありがとうございます。

 あと2、3話ほどで体育祭は終わりにします。


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