【解説】 高村 芳さん著



 本ページでは、以下の方から頂いた作品解説(よく単行本の巻末などに記載されているあの解説文の事)を掲載しています。


 高村 芳さん

 https://kakuyomu.jp/users/yo4_taka6ra


 クスッと笑ったり共感したり出来る、嬉しい文章をいただきました。

 作品を最後まで読んでいただけた方にこそ、ぜひ読んでいただきたいです。

 

  ◇ ◇ ◇


 「これは、業務効率化に関するビジネス書ですか?」

 これがこの小説の初見の感想であった。


 そもそも、この解説を書いている私は、いわゆる「異世界ファンタジー」というジャンルを読むのは初めての、ウェブ小説投稿サイト「カクヨム」で小説を投稿し続けている、しがないアマチュア小説家の一人である。そんなド素人なのにこの解説を書かせていただいているのは、ひとえに作者である野菜ばたけさんの度量の深さと、作品自体に“読ませるチカラ”があることに他ならない。少々、本作の魅力をお伝えするためにお付き合いいただきたい。


 本作はいわゆる「異世界ファンタジー」のジャンルに属すると思う。このジャンルは、門外漢である私から見ても、実に幅広い多様性をもって時代とともに変化しているのは間違いない。魅力的な世界で魅力的なキャラクターがイキイキとしている姿は、私たちが生きている現実からかけ離れていてワクワクする。少し鬱屈とした生活から一瞬でも離れられるのだから、人気があるのもうかがえる。異世界ファンタジー小説が人気ジャンルになるのは当たり前のことだといえよう。

 その中でも、「伯爵令嬢が効率主義に成長中だったら―『効率的』を目指して色々チャレンジしてみます!―」は、もしかしたら少し異質な存在なのかも? と素人ながら思っている。本作は少し系統が違う。異世界の舞台で魅力的なキャラクターが、私たちが生きる現代のビジネス思考を実践していたら。しかもそれを四歳の伯爵令嬢が実行していたら。どうなるのだろう。

 「伯爵令嬢が効率主義に成長中だったら―『効率的』を目指して色々チャレンジしてみます!―」は、弱冠四歳のオルトガン家伯爵令嬢・セシリアが、物事に“効率的”に取り組むべく、周囲の人々の協力を得ながら成長していく物語である。セシリアは、「おべんきょうをしたくない」という思いに端を発し、「おべんきょうをより負担少なく、“効率的”にしていくために何をすべきか」を考えて、ひたすらに行動していく。「ああ、幼女が頑張る話ね」、と侮ってはいけない。セシリア嬢は弱冠四歳ながら、オルトガン家の教育方針を忠実に守れる聡明さを持っているのだ。

 オルトガン家の教育方針は、第一話で示される。

 「自分のしたい事をする事」

 「分からない事はそのままにしない事」

 「何に対してもしっかりと考え、調べ、自分の意見を持つ事」

 「誰かの目や噂より、自分の見たもの、その時に思った事を信じる事」

の、四つである。

 これは主人公のセシリアだけではなく、家族のオルトガン家すべての人間に通ずることだ。

 「いやいや、いくらなんでも四歳の幼女が“効率的”にって、限度があるでしょ」と

思っている方こそ、この物語を読んで欲しいのである。

 本作は、おおよそ三部構成だと言っていいだろう。

 第一部では、セシリアが「おべんきょうをしたくない」という思いを元に、通常よりも先に“おべんきょう”を始めてしまう。「何を言ってるんだ? おべんきょうをしたくないのに、おべんきょうを始めるとは!?」と読者の皆様は思うことだろう。正直、私も思った。確かに、嫌なことはさっさと済ませてしまうのが大事だとは思う。セシリアはやる気満々だ。「鉄は熱いうちに打て」と言わんばかりに、セシリアの母・クレアリンゼはおべんきょう開始を許可する。そのため、セシリアは四歳ながらめきめきと基本知識を身につけていく。

 そして第二部は、セシリアのお父様――ワルター・オルトガン伯爵の執務室を効率化するプロジェクトを実施する。四歳の無邪気な好奇心と、大人顔負けの着眼点、そして周囲の人間を巻き込むチカラをもつセシリアは最強である。ワルターの執事であるマルクに助けられながら、兄のキリル、姉のマリーシアとともに執務室効率化に向けて奮闘する。この執務室効率化プロジェクトは、現代のビジネス書と言っても差し支えない。それほどに、現代社会で円滑にビジネスを進めていくための大事なエッセンスが詰まっているように感じる。私たちが課題に感じることも、まだ十歳にも満たない三兄妹がチカラを合わせて解決に向かっていく姿にはハラハラドキドキさせられながらも、たまに感心してしまうからおもしろい。

 最後には、セシリアが一人でプロジェクトを実行していく。その名も「おしごとツアー」。屋敷に勤める使用人の子どもたちに、屋敷内を案内しながら仕事の内容を紹介して、将来について考えてもらおうという企みだ。この幼女、屋敷の人事までやってしまうからたまげてしまう。目的を違えない。周りの大人に頼るのではなく、大人と交渉し、子どもたちを堂々と引率していく。

 これまでと違うのは、セシリアがトラブルに見舞われることだ。仕事をする上で、トラブルは切っても切り離せないものである。それをセシリアは、見事に回避する。その回避の仕方は、まるで責任感の強い上司のようだ。そしてそのトラブルの解決は、野菜ばたけさん著の「伯爵令嬢が効率主義の権化になったら ~第二王子と侯爵子息に巻き込まれたので、『効率的』に解決する事にしました~」に続いていく。

 セシリアの求める「効率的」のカタチが、本作を通して見えてくる。きっと効率を求めるということは無駄をそぎ落とすことではないと、四歳の彼女が示してくれる。彼女の考える「効率的」は、自分の中に知識を蓄え、自分で考える。その考えを周りと共有し、一緒に考え、一緒にゴールに進んでいく。自分のチカラだけではなく、周囲の人々とチカラをあわせていくことこそが、「効率的」だと物語っている。それを教えてくれる本作は、やっぱり“よくある異世界ファンタジー”の中でも、現実世界を忘れさせてくれるのではなく、現実世界で「セシリアのように頑張っていこう」と思わせてくれる作品だと思う。



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