第13話 予定の再編と道順確定
セシリアは、自室でうーんと悩んでいた。
先日母から貰った助言を元に彼女は今、ツアーの回る順番とその道順を再検討中なのである。
セシリアは母に助言を貰ってから、すぐに行動を開始した。
まず最初に、各仕事場の訪問可能時間についてもう一度聞き込みをしに行ったのである。
今回、セシリアは訪問可能時間について時間の融通がどの程度だったら聞きそうかを聞いて回り、幾つか候補を出してもらった。
気を付けなければならないのは、それが『命令』にならない様にする事だ。
(作業時間上今以上に候補日時が出せないのに、『わたしに言われたから無理矢理捻り出した』じゃぁ仕事に支障が出ちゃう。それはダメだもの)
だから「あくまでもこれは各職場の状況を聞く為の聞き取りであり、無理矢理時間を捻出してほしい訳では無いのだ」と丁寧に説明した上で情報を引き出したのだ。
(結果も上々だったけど、それよりも驚いたのは仕事によって両極端な結果になった事ね)
手元にある聞き取り調査の結果が書かれた紙を見下ろしながら、そう独り言ちる。
今までセシリアは『全ての仕事には忙しい時間とそうでない時間が、明確に存在する』ものだと思っていた。
しかしそれは誤りだった。
例えば厨房の様に、1日の内で『とある決まった時間に必ず成果を出さなければならない』様な仕事の場合は、1日の中でも繁忙期と閑散期が如実に存在する。
しかし例えば洗濯担当のランドリーメイドなどには明確な『必須ノルマ』という物が基本的には存在しない。
その為1日の中で繁忙期と閑散期の波が存在しない。
しかし『必須ノルマが無い』事は、『仕事量が少ない』事と同義ではない。
彼女達は『此処まで』という線引きが用意されていないが故に、常に仕事が存在する。
日々の衣類やシーツの他にもカーテンや飾り棚のテーブルクロス、天蓋など。
いつも洗濯する必要は無いが定期的に洗濯が必要な物というのは、意外と多く存在する。
部屋数が多い為、それらを日々出る洗濯物の合間を見て洗濯していくと、全てを一回り洗濯し終えた頃には大体最初の方に洗濯したものが汚れてきている。
いたちごっことは、正にこの事だろう。
つまりそういう人達の仕事はコックなどの『必須ノルマ』がある人達と比べると「常に忙しい」とも、「常に比較的暇」とも言える。
事ツアーに関して言えばその特性は、前者は時間の融通が利き難く、後者は時間の融通が比較的利き易いという形で現れる。
その為今回は後者の職場の人達により多く、時間の融通をお願いする形となった。
融通してもらうのは、何だか少し悪いような気がしなくも無い。
しかし順路の事を考えると皆の希望にどこかしらの妥協を見い出さなければならない事も確かである。
気にした所で一定の妥協はしなければ成り立たないのだから、仕方が無い。
妥協してくれた人達には、代わりに余分な時間を取らせない様に計画する事で報いるしかないのだ。
そうして聞き回った訪問可能時間を手に、セシリアは今ツアーで回る順番について懸命に考えを巡らせていた。
まず候補時間が1つしか出なかった仕事場について、地図の中に時間を書き込んで行く。
開始時間を指定されているのは、日々の食事を作る『厨房』、給仕と来客の取次や接客などをする『パーラーメイド』、そして屋敷内の警備や外出時の主人達の護衛をする『私兵』の3つである。
『厨房』は食事を作って提供する為のタイムテーブルに沿って働く必要があるため。
『パーラーメイド』は食事と1日に2回のティータイムの給仕を行う為。
そして『私兵』は門番や護衛だけではなく、日々の訓練が必要なのだ。
「なるべく訓練に影響が無い形でツアーに対応したい」という要望があった為、そちらの都合に合わせて時間を調整することにした。
対して時間に融通が利くのが、庭園の管理をする『庭師』、馬車を操る『御者』、主人やその家族の身の回りの世話をする『レディースメイド』、レディースメイドの仕事に加えて執務も手伝う事のある『執事』、館内の掃除を担当する『チェインバーメイド』、館内の洗濯を一手に引き受ける『ランドリーメイド』、未就業の使用人の子供達の面倒を見る『子供部屋世話係』の7つである。
因みに職名に『メイド』と付いている物が散見しているがそれは便宜上そう呼んでいるだけであり、何もその職場には女性しかいないという意味では無い。
彼らは俗に言う『下男』や『従僕』と呼ばれる職種の者達だ。
しかし伯爵家に於いては、彼らは『様々な雑用を熟す者』としてではなく『一つの仕事場専属の者』として扱われている。
その為『チェインバーメイド』の職場には館内の掃除を担当する『従僕』も居て、男女共に同じ職種を担っている。
その中で男女の線引きが呼び名として明確なのが、『レディースメイド』と『執事』である。
それは両者が共に主人の近くで身支度などの手伝いも行う者達であり、女性の身支度にはレディースメイドが、男性の身支度には『執事』がそれぞれ従事するからだった。
さて、そんな裏事情はさておき。
セシリアは全ての仕事場について地図に書き込み終わると、「うーん」と声を上げた。
(ここからが難しい。なるべく移動距離が少なく済むように順番を組まなければならないんだから)
各仕事場での滞在時間は、25分。
時間が余れば質問タイムなどで時間を引き延ばし、時間が過ぎた場合は例え仕事体験の途中でもそこで切り上げる。
そういう約束である。
その為滞在時間によるスケジュールの遅れ等を気にする必要は無いのだが、それでもやはり難しいものは難しい。
特に、セシリアはまだ4歳で、そういう調整を行うのも初めてである。
簡単な筈が無い。
結局それから作業に費やす事、約1時間。
セシリアはやっとの事で、「母に見せても恥ずかしくない」と思える物を完成させた。
セシリアはふぅーっと深く息を吐くと、大きく伸びをした。
背中を大きく反りすぎたせいで椅子からひっくり返りそうになる。
ポーラがそれを、血相を変えて受け止めた。
そのせいでその後しばらく、セシリアは滾々と注意を受けることになったのだった。
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