第8話 することリストを作ってみる

 


 『おしごと』ツアーの開催を許可されたセシリアは、早速次の日からその準備に取り掛かった。

 とは言っても、まず初めにしなければならないのは必要な作業の整理である。



 このツアーを開くには、沢山の作業が必要で、そのためには色々な人との関わりが必要で、考えなければならない事も多い。

 そしてその中には同時進行しなければならない事もある。


 クレアリンゼに教えてもらった『責任』も含めて、一度全てを紙に書き出さなければどれかを遣り忘れてしまいそうな気がする。



 昨日の事も思い出しつつ、すべき事を洗い出す。


 先日覚えたアルファベットは、既に読み書きの実用段階まで熟練度を高めている。

 メモを作る程度の事は造作も無い。


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 ●『おしごと』ツアーのために、必要なこと

  ・使用人のおしごとの種類確認

  ・『おしごと』ツアーの説明

  ・おしごと体験の内容確認

  ・訪問日時の確認

  ・参加者の募集


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 紙に思いつく事を一通りの事を書き連ね、一度読み直した後でクルリと後ろを振り返った。

 そこにはポーラが控えている。


「ポーラ、『おしごと』ツアーについて、一緒に考えてほしいんだけど」

「はい、何でしょう?」

「これ、しなきゃいけない事を書いたの」


 差し出された紙を受け取って、ポーラが目を通し始めた。

 そんな彼女に問う。


「他にしなきゃダメなこと、無いかな?」


 その問いに、彼女は一通り読み終わってから答える。


「そうですね……少し質問させていただいても宜しいでしょうか」

「何?」

「上から2つ目の『『おしごと』ツアーの説明』ですが、これは誰に対して行う予定ですか?」


 その問いに、セシリアはきょとんとした表情を浮かべた。


「『おしごと』ツアーに関係のある人には、全員に説明しなきゃダメでしょ?」


 既に決まっている事を確認する時の様な声色でそう言われ、ポーラは「ふむ」と考える。


 彼女はどうやらそれが当たり前だと思っている。

 しかしそれを実現する事は少し無理があるし、必要だとも思わない。


(どう言えば、無理なくそれを分かってもらえるか)


 少し悩んだ後で、こう切り出した。


「例えば館内の掃除をするメイドは全部で14人居ますが、全員を集めて、もしくは全員の元を一人一人回って説明する予定ですか?」


 そんな風に問われて、やっとセシリアは彼女が何を指摘したいのかに気が付いた。


 使用人全員を一カ所に集めればその間誰も仕事を進める事が出来ない。

 仕事に支障が出てしまう。


 更に言えば、14人全員に説明する必要も無い。

 だって今回のツアーについて詳細までしっかりと知っていてほしいのは、ツアー当日に役割が与えられる人間だけで十分だからである。


「ツアー参加者の人数によるかもしれないけど、手伝ってくれる人は多くても一カ所に2,3人居れば十分だと思うから、その位の人に話せばいいかな?」

「仕事によって必要な人数も状況も違うと思いますし、最低1人ずつという事で後は各仕事場に担当者を決めてもらった方が良いかもしれません」


 ポーラの言葉に「確かにそうだな」と頷いて、紙に以下の内容を追記する。


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  ・おしごと毎に担当者を選定

   (最低1人)


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 セシリアが紙に書き終わったのを確認してから、ポーラはまた口を開く。


「当日にツアーで館内を回りますが、その道順は事前に決めておいた方が良いと思います。移動する子供達は、普段は使用人棟に居て滅多に外に出ません。そんな子達が歩いても危なくない、道に迷い難い道を選んだ方が良いと思います」

「……一度道を決めて、お母さまに確認してもらった方が良いかな?」

「そうですね、奥様も相談に乗ると仰ってくださっていましたし」


 やり取りをしながら、セシリアは紙にまた追記した。


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  ・ツアールートの確認

   (危険が無いような道にする)

  ・ツアーのルートをお母さまに相談


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「邸内の地図はある?」

「今手元にはありませんので、早めに用意致しますね」


 ポーラの声に「ありがとう」と答えながら、セシリアは自身の書き込んでいる紙をもう一度眺めて、ポーラに再び問いかけた。


「他にはもう無いかな?」

「そうですね、あとは……今回の『おしごと』ツアーのゴールは、『自分が就きたい仕事に就く事』なのですよね?」

「うん」

「それならこれは『敢えて言うなら』という程度ですが……ツアーの後日に就きたい仕事が見つかった子の力になってあげられれば、完璧ではないでしょうか」


 そんなポーラの提案に、セシリアは「うーん」と考えながら尋ねる。


「それは例えば、「メイドになりたい」っていう子が居たら、メイド見習になれるように、お願いするっていうこと?」

「それも良いと思いますが、まずはお話を聞いてあげるだけでも十分その子の為になると思いますよ。頭の中で整理できていない事も、口に出して話してみたら案外簡単に自分の気持ちを整理出来たりするものですし」


 悩んでいる子なんかは、特に。

 そう言葉を続けたポーラに「なるほど」と納得しながら、また紙に1行、こう追記する。


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  ・ツアー後、面談

   (したい仕事があったかを聞く。

    希望者には、仕事の斡旋)


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 書き終わってから、セシリアはもう一度ポーラに思いつく事は無いかと尋ねた。

 彼女が「後は特には」と答えたので、取り敢えず一旦ここで切り上げる。


 そして箇条書きにした内容を行うべき時系列順になるように組み替えて、見易くする為に整理し直した。



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 ●『おしごと』ツアーのために、必要なこと

 【ツアー前】

  ・使用人のおしごとの種類確認

  ・おしごと毎に担当者を選定

   (最低1人)

  ・担当者に『おしごと』ツアーの説明

  ・おしごと体験の内容確認

  ・訪問日時の確認

  ・ツアールートの確認

   (危険が無いような道にする)

  ・ツアーのルートをお母さまに相談

  ・参加者の募集


 【ツアー後】

  ・面談

   (したい仕事があったかを聞く。

    希望者には、仕事の斡旋)


 ========================


 此処まで書き終わると、一度紙を一通り眺めてから息を吐く。


(ふぅー。今日は何だかとっても頭を使った様な気がする)


 脳に心地良い疲労感を抱きながら、セシリアは一度大きく伸びしたのだった。


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