第44話 エールへ向かう

 中学生のあたしが異世界に飛ばされて一週間。ダゴンという屈強の戦士のおかげで生き延びていた。

 ダゴンは人を探すなら封印の島をまずは出て、人間のいる国へ行き情報を集めるべきだと言った。

 おすすめはエール神聖王国。大陸の北だという。


「かなり遠いぞ」

 ダゴンは大変さを説明してくれた。

 今いる暗き森は大陸の南に浮かぶ島で回りは海。

 大陸行くには船か何か海を渡るものが必要だと。


「それに途中、やっかいな所を通る」

「やっかい?」

 ダゴンが言うにはゴースは七つの国からなっていて、住む種族も違うし考え方も違う。簡単には通り抜けられない。それにまだ七つの国に、支配されていない場所がある。そこでは法や決まり事は通用しないと。


 それでもこの世界に来た理由「バアル」という男の子を探さないといけない。


「エールまで、どれくらいかかりそうかな?」

「そうだな一ヶ月、いや……」

 ダゴンはあたしの身体をマジマジと見てから言い直す。

「三ヶ月かな。おまえの体力だとかなり厳しい」

「異世界だから魔法の箒で、びゅーんと一気にエールに飛べないの?」

「そんな非魔法的なものは無い」


 ちょっと夢のないダゴンの言葉に、少しくらいはと言ってみる。

「非科学的じゃなくて非魔法的かあ。異世界って言ってもそんなに便利じゃないんだ」


 ダゴンとはなんでも話し合えた。くったくのないあたしに笑う赤髪の男。


「アナトは言いたい事を言うな。現代でもそんな感じか?」

「え? 現代のあたしは……思った事を口に出来ない事が多いな。ダゴンはあたしに色々と頼まれたり、たまに乱暴な事を言われて怒らないの?」


 うーーん、腕組する赤髪のダゴン。


「まあ、たまには怒るかもしれんが、それも自然な事だろう? 頼まれた事もおまえを気にいったから手伝う。何かおかしいか?」 


「おかしくないと思う。でもあたしの住む現代では、ダゴンのようにストレートに気持ちを伝える事は少ないよ。親友でも家族でもね」


「ふ~ん、そんなもんかね。オレにはそっちの考え方が分らんがね。知り合ってばかりのオレに、こんなに話せるなら、付き合いが長い、現代のおまえの知り合いには、自分の考えを伝える事は簡単な事だろう?」


 理屈はそうだ。でも人間関係はそう簡単ではないのだ。中学生も大変だよ。


「まずは出発しようか。頑張れよアナト」

 ダゴンの励ましに「うん」と素直に答えてあたしは歩き出す。


 日中でも日が入らない、暗き森の中をダゴンに懸命に着いて歩く。


「ハァハァ、たしかに……こりゃ厳しい……」

 山歩きなどしたことない、あたしの身体が悲鳴をあげていた。

「ダゴン……」

「なんだ?」

「少し休んでいかない?」

「さっき休んだばっかりだろう? オレは無理だと反対したのに、エールへ行くと言ったのはおまえだろう?」


「はいはい、その通りでございます……」

 エールへは行きたい、でも三ヶ月もかかるのは困る。

 そこでダゴンに、もっと早くエールへたどり着く方法は無いかと聞いた。


「一つあるが……おまえで大丈夫かな?」

 あたしは人差し指で自分を指す。

「あたしの何が問題に?」


「早くエールへ行くなら、ジャンプを使うしかない」

「それなら楽そうだね。で、どうやったらジャンプ出来るの? エール直行便はあるの?」


 非魔法的だとこの間言っていたのに、移動方法あるじゃないの。

 だがダゴンに条件が厳しいと言われる。


「俺が出来ないと言ったのは条件が難しい。今のアナトでは殆ど無理な気がする。まずジャンプを使う為には、転移の神殿に行かねばならない」

「転移の神殿?」


 そうだ、頷くダゴン。


「近道すれば五日くらいで神殿に着く。ただしおまえの脚ではかなり大変だぞ。それに転移の神殿にたどり着けても問題が……それは神殿に着いてからの話しかな」

 なんか色々ありそうだけど、チャンスがあるならチャレンジしてみたい。


「とにかく出発しましょう! 転移の神殿へ」

 ノリノリのあたしを見たダゴンは大きなため息をついた。

「おまえの良いところは前向きな所だな」

「それって、褒め言葉かな?」


「オレもかなり楽天的だけど、おまえのは無茶と無謀。自分の事を良く分ってない」

「あたしは現代の友達の無茶ぶりや、冷静な胸に刺さる一言にも耐えている。ダゴンが思うよりずっと我慢強い……はずよ」


 あたしの自己申告でも、ダゴンの心配そうな顔は変らなかった。


「我慢強い……それが本当なら嬉しいのだが……」

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