第34話 エールの麒麟児

 不意の攻撃であることよりも、アイネが唱えた魔法の種類に俺と赤龍王は驚いた。


 俺への回復系と赤龍王の前から飛んだシールド系、どちらの魔法も僧侶系の魔法で、魔法使いには使用できない。

 まして僧侶が攻撃魔法を使えるなど聞いた事がない。

 それに前の戦いではアイネは剣を握っていた。


「おまえはいったい!」

 赤龍王と俺の言葉が重なった時に、アイネの魔法が炸裂した。

『全てを凍らせ砕け鋭き氷の壁 ラ・フリーズバイト』


 アイネの目のに氷の壁が出現した、周りの温度が急激に下がり始め、氷の壁は急速に成長し赤龍王を閉じ込める。


「ブレイク!」

 アイネのかけ声が続き、氷の壁が砕け、閉じ込められていた赤龍王が、地面に倒れ込む。


「神官クラスの回復魔法に、メイジクラスの攻撃魔法。お姉さんは何者?」

 俺の驚きと対照的に、まったく表情を変えないアイネは、倒れた赤龍王を見ている。


「凄いな。アイネはどうして攻守の高等魔法を両方使えるんだ……」

「しっ! 黙って」

 俺の言葉を遮るアイネ。


 ドン。とてつもなく重い音がした。

 巨大な何かが立ち上がる衝撃が地面を走る。

 赤龍王が倒れた地面から跳ね上がり立った。


「ふん、世の中にこんな奴がいるとはな」


 身体からも表情からも、アイネの高位の攻撃魔法のダメージがない事が分かる。

 しかし赤龍王はアイネへの賛辞をその身に現す。


 背中にレッドドラゴンの影が大きく映り、竜のエナジィが全身から揺らめき始める。

「本気でやろうか小娘。俺には魔法は効かないぞ。さて今度はどんな芸を見せてくれる?」

 赤龍王の言葉を予想していたように、アイネはスムーズに迎撃態勢を取り剣を抜いて構えた。


「回復魔法に攻撃魔法。ついでに剣技もこなすか……なるほど、おまえはエールの麒麟児のようだな。エール宮殿を守る騎士団の歴史の中でも、特に優れた天才が現れたと聞いた事がある。剣士ながら全ての種類の魔法を使いこなし、十二歳で騎士団長に任命された。しかし、あまりに自由過ぎる考えと生き方に、エール宮殿を追い出されたと聞いたが?」


「人違いですね……それに余計な事ですよ赤龍王」

 アイネの手には、輝く双剣オリオンが握られていた。


 赤龍王が懐かしそうに、オリオンを構えるアイネを見る。

「上等な剣だな。一本造りの名刀か? 神人のメインウェポンの一つ……神の武器を人間が振り回せるとは思えんが?」


 神話で語られる武器である、オリオンは双剣で各々にブルーとグリーンに光る。

 非常に薄い剣であり、柔らかく良くしなる。

 そのため素早い攻撃が可能だが、固いものを切るためには、エナジィによる肉体強化と、剣自身の切れ味を益すエンチャント効果が必要。

 神話の武器らしく、通常の剣の十倍もの大量なエナジィを、持ち主に求めた。

 並みの者なら持つだけでエナジィが吸われ、立っている事も難しいだろう。

 見事なアイネの構えに、赤龍王が剣を持っていない左手で誘う。


「さあ小娘。見事それを振って俺を切って見せろ!」


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